「……だから、だからね」

 僕には海谷くんと真昼の間に何があるのかはわからないけれど、と(とも)は心の中で囁く。
 震える言葉は不器用でもどかしいかもしれない。ただ、胸の不安を取り除いてあげたくて、彼は星夜の手を握った。

「たしかに、真昼は本当に鈍感で危ういし世間知らずで、周りの人に気を遣ってあげなげればと思わせてしまう。でも、君の思うよりずっと優しくて強い子なんだ」

 大丈夫だよ、という何気ない気遣いは上手く声にならない。朝は真昼を慕っていることを省いて、星夜に今までのことを話した。男が好きだなんて口が裂けても言えるはずがない。きっと軽蔑される。
 だが、海谷くんには素直に明かしてもいいかもしれないな、とその顔を見て思った。

「ちょっと、何で海谷くんが泣いて……泣いているんだよ……」
「な、泣いてねえしっ」

 夏の宵。薄暗く、彼ら二人しか居ない病室には、まだ幼い啜り泣く声が轟いている。
 朝が初めて自分の聞いてほしかった秘めた過去を話した日。
 また、ある人が自分の犯した過ちに気づいた日。

 八月二十日、花束のチョコレートコスモスがカーテン越しに彼らを見届けている。二人の青年が痛みを知りまた一つこうして成長していくのだ。

「なあ、何で俺に昔のこと話してくれたんだ」

 星夜が不思議そうに問いかける。

「うーん、何か悩んでそうだったから僕の悩みを言ったら少しだけその重みが減らないかなって」

 慈悲深い返答に、そっか、と言って星夜は微笑む。つきものが落ちた表情をしているので、恐らく悩みは自己解決したのだろう。
 自分のお陰で友人の悩みの重みを減らすことができて朝は少しだけ誇らしく思った。