夏休みが終わって学校に通い始めてから。結局、星夜は真昼と軽い挨拶はともかく一度もきちんとした会話をすることはなかった。
 それは偶然などではなく、星夜から真昼のことを一方的に避けていただけなのではと思っている。
 いじめは終息していたし、あのときの贖罪もさることながら、どうしても真昼伝に"彼"のことを知りたくなかったのだ。
 なぜなら、思い出せば必ずまた彼に会いたくなってしまう。声を聴きたくなってしまう。あの香りを懐かしく思ってしまう。
 片や真昼自体もシャイだったからか、星夜に直接話しかけてくることもないのだ。

 また、二学期が始まってしばらく経ったときの話。真昼が目を腫らして学校に来たことがあった。
 それから数週間はミスばかりの上の空で“彼"に何かあったのを星夜は察した。でも、真昼は会話のきっかけがなかったこともあり、彼に何があったのか星夜に話すことはなかったのである。
 朝の容態が悪化して亡くなってしまい、落ち着きがないのか、それとも退院して嬉しくて上の空なのか星夜は知らない。
 どれだけ星夜が気に留めても、真昼が伝えて来なかった時点できっと知る権利のない話なのだと思う。

 それから朝のいない時はあっという間に経ち、虫垂炎の手術で入院する日が訪れた。
 朝のいた病室を星夜はこっそりと覗きにいく。正直、彼の存在が少しだけ気がかりなのだろう。

「────」

 病室の前に確かにあった名前は無くなっていた。

 ──少しだけ、ほんの少しだけ、また朝に会いたかったんだけどな。

 星夜はくるりと自身の病室へと引き返す。すると、ふと鼻に甘い香りが漂うのだった。