一方で真昼の夏休みの部活動では主犯格の星夜が居ないこともあり、嫌がらせや悪口を言われることは全くなかった。部活動の新しい友達もでき、理想の学校生活を謳歌している。
「まっぴーはさ、好きな人とかいるの?」
部活の帰路、真昼は友達に突然質問をされた。コイバナは真昼にははまだ早かったのか、顔を真っ赤にさせて戸惑っている。
「えっ。ぎゃ、逆に太陽くんはどうなの」
好きな人は友達に言うものなのか迷った真昼は聞き返して見ることにした。すると、
「二組の篠宮かなぁ、顔がダントツで可愛いし!」
とドヤ顔で言われる。
好きな人という存在が本でしか知識がない為、真昼はやはり、よく分からない様子だ。首を傾げて太陽の話を聞いている。
好きな人は顔が可愛い人のことを言うのだろうか、と。
「ほら、俺が言ったんだから言えよ」
星夜はおれのことをいじめていたと勘違いしていたみたいだし、自分をいじめている人のことを好きになるっておかしいかなと真昼は少しだけ考えた。
しかし、星夜が人をいじめているところを好きになった訳ではないのだから大丈夫だろう。
「えっと、内緒にしてね。海谷くんだよ。同じクラスのね」
照れくさそうに、そう答える。
星夜本人に好きだとバレないようにするためも“内緒にしてね"と言うのは大事である。モジモジとしながら真昼は顔を上げると、なぜか太陽は笑っていた。
「ちげえよ、男はダメ! 女子の中で誰が好きなのか答えろよ」
笑いを堪え、当たり前のようにそう言う。何を冗談言っているんだ、とでも言いたいのか、太陽は真昼の肩をバシバシと叩く。
「何で? 男は好きになったら駄目なの?」
真昼は自分の思った事をそのまま伝えると、太陽の顔色が変わった。
しばらく考えると、気まずそうな顔をして
「本気で言ってる? ……お前ってもしかしてバイかゲイ?」
と聞いてくる。真昼の最初の感想はバイ、ゲイって何だろうということだった。
「それってどういうこと」
あどけなく聞く姿に太陽はいても立ってもいられず、ひと呼吸おいて説明し始めた。
「うーん、バイは男性にも女性にも恋愛感情を抱く人のことで、ゲイは男性を恋愛対象にする男性のこと、みたいな」
先程の太陽の焦りように真昼は何か重大な問題を抱えていたのでは、と不安になっていた。
でも、慎重に言葉を選ぶ太陽の姿を見ていれば、いつの間にか真剣に話に聞き入ってしまう。
「子どもは男と女の間にしか産まれないだろ? 子孫を残すためにみんなは必然的に異性を好きになって子どもを授かろうとするわけで。だから、同性同士で恋愛することは生物学的には反していて珍しいことだって見做されてるんだよ。最近だと、ゲイとかの性的少数者をひっくるめて"マイノリティ"って言ったりする」
悲哀に満ちた真昼の顔を見た太陽は、更にこれは別に悪いことではないしおかしいことでもない、と言葉を付け加える。
おれが星夜を好きなのは皆んなから見たら普通では無かったんだ、と真昼はようやく気付いた。真昼はただ純粋に恋をしていただけなのに、それが差別の対象として見られていることに驚いたようだ。
知らなかった、と悲しそうに呟いている。
もし、話していたのが太陽ではなかったらきっと軽蔑されていたのだろう。星夜以外で人を恋愛的に好きになったことが無かった。だから、マイノリティのうちのどちらに当てはまるかは無知な真昼には分からない。
けれども、日本で同性婚というものが認められていないことを知ってしまったのだ。
その日の夜。昔、朝にもらった、もうドライフラワーになったチョコレートコスモスのフラワーアレンジメントを見つつ、酷く落ち込むのだった。
「まっぴーはさ、好きな人とかいるの?」
部活の帰路、真昼は友達に突然質問をされた。コイバナは真昼にははまだ早かったのか、顔を真っ赤にさせて戸惑っている。
「えっ。ぎゃ、逆に太陽くんはどうなの」
好きな人は友達に言うものなのか迷った真昼は聞き返して見ることにした。すると、
「二組の篠宮かなぁ、顔がダントツで可愛いし!」
とドヤ顔で言われる。
好きな人という存在が本でしか知識がない為、真昼はやはり、よく分からない様子だ。首を傾げて太陽の話を聞いている。
好きな人は顔が可愛い人のことを言うのだろうか、と。
「ほら、俺が言ったんだから言えよ」
星夜はおれのことをいじめていたと勘違いしていたみたいだし、自分をいじめている人のことを好きになるっておかしいかなと真昼は少しだけ考えた。
しかし、星夜が人をいじめているところを好きになった訳ではないのだから大丈夫だろう。
「えっと、内緒にしてね。海谷くんだよ。同じクラスのね」
照れくさそうに、そう答える。
星夜本人に好きだとバレないようにするためも“内緒にしてね"と言うのは大事である。モジモジとしながら真昼は顔を上げると、なぜか太陽は笑っていた。
「ちげえよ、男はダメ! 女子の中で誰が好きなのか答えろよ」
笑いを堪え、当たり前のようにそう言う。何を冗談言っているんだ、とでも言いたいのか、太陽は真昼の肩をバシバシと叩く。
「何で? 男は好きになったら駄目なの?」
真昼は自分の思った事をそのまま伝えると、太陽の顔色が変わった。
しばらく考えると、気まずそうな顔をして
「本気で言ってる? ……お前ってもしかしてバイかゲイ?」
と聞いてくる。真昼の最初の感想はバイ、ゲイって何だろうということだった。
「それってどういうこと」
あどけなく聞く姿に太陽はいても立ってもいられず、ひと呼吸おいて説明し始めた。
「うーん、バイは男性にも女性にも恋愛感情を抱く人のことで、ゲイは男性を恋愛対象にする男性のこと、みたいな」
先程の太陽の焦りように真昼は何か重大な問題を抱えていたのでは、と不安になっていた。
でも、慎重に言葉を選ぶ太陽の姿を見ていれば、いつの間にか真剣に話に聞き入ってしまう。
「子どもは男と女の間にしか産まれないだろ? 子孫を残すためにみんなは必然的に異性を好きになって子どもを授かろうとするわけで。だから、同性同士で恋愛することは生物学的には反していて珍しいことだって見做されてるんだよ。最近だと、ゲイとかの性的少数者をひっくるめて"マイノリティ"って言ったりする」
悲哀に満ちた真昼の顔を見た太陽は、更にこれは別に悪いことではないしおかしいことでもない、と言葉を付け加える。
おれが星夜を好きなのは皆んなから見たら普通では無かったんだ、と真昼はようやく気付いた。真昼はただ純粋に恋をしていただけなのに、それが差別の対象として見られていることに驚いたようだ。
知らなかった、と悲しそうに呟いている。
もし、話していたのが太陽ではなかったらきっと軽蔑されていたのだろう。星夜以外で人を恋愛的に好きになったことが無かった。だから、マイノリティのうちのどちらに当てはまるかは無知な真昼には分からない。
けれども、日本で同性婚というものが認められていないことを知ってしまったのだ。
その日の夜。昔、朝にもらった、もうドライフラワーになったチョコレートコスモスのフラワーアレンジメントを見つつ、酷く落ち込むのだった。