こんなのよくある罰ゲームだった。

 同じバスケ部の友達とフリースロー大会をして、はじめに負けた奴が罰ゲーム、みたいな……。俺はバスケ部のエースだから、そんな勝負に負けるはずなんてなかった。
 ゴールに向かってシュートをする態勢をつくる。もう何百回、何千回って打ってきたフリースローだ。もちろん、わざと外す気なんてさらさらない。呼吸を整えて静かに目を開く。
 膝のバネを使ってジャンプしようとした瞬間。
校内放送であいつの名前が呼ばれた。職員室に来いっていう呼び出し。そんな放送、珍しくなんかないのに、そいつの名前を聞いた瞬間、自分でもびっくりするくらい心臓が跳ね上がった。
「あ……」
 ヤバイ……そう思ったときには、バスケットボールはゴールの淵に当たり、はじき返されてしまう。ボールが床を跳ねる音が広い体育館に響き渡った。
 シーンと鎮まり返った直後、嬉しそうな顔をした友人たちが俺の所に一目散に走り寄ってくる。

「マジか!? (なぎ)が外すとは思ってなかった」
「罰ゲームは凪に決定な!」
「あははは! いつも完璧なお前が罰ゲームなんて、めっちゃ気分がいい!」
 皆が好き勝手言っているものだから、思わず不貞腐れた顔をしてしまう。なんでこいつら、こんなに楽しそうなんだよ。小さく舌打ちをした。
「凪の罰ゲームどうする?」
「そうだなぁ……あ、こんなんどう?」
 友人の一人が「いいことを思いついた」とばかりに顔を輝かせる。
「四組の神谷章人(かみやあきひと)に付き合ってほしいって告白する!」
「な、なんでそうなるんだよ! それは絶対に嫌だ!」
 それを聞いた瞬間、俺は思わず大声を上げてしまう。そんな罰ゲームなんてない。死んでも嫌だ。なぜなら、俺は神谷が大嫌いだから。
「そんなにムキになんなよ! もしかして凪がシュートを外した原因も、放送で神谷の名前が呼ばれたから……とか?」
「えぇ? マジで? 凪、神谷のことが大嫌いとか言っている割には、めちゃくちゃ意識してるもんなぁ」 俺は今にも顔から火が出てしまいそうなぐらい紅潮してしまう。それでも、何も言えずに俯いた。つい先程、神谷の名前が放送から聞こえてきて動揺してしまったのは事実だ。
 ――でも、俺は……。

「じゃあ、決定な! 神谷に告白して結果が出たら、ちゃんと報告してくれよな」
「頑張れ、凪!」
 俺のことなんてお構いなしに楽しそうにしている友人たちを、俺は睨みつけることしかできなかった。