アラレが崩れ落ちた。
「ほれ」
三四郎は隆史に拳銃を差し出した。
「せめてこれ、もらってやれよ。プレゼントを貰う、っていうのも、相手に対する優しさだよ」
三四郎はアラレに、「いいよな」と返事を求めた。
アラレはただしゃくりあげている。
「優しくしたらつけあがりそうだけどな、この人。それに多分これから必要になるだろ」
三四郎が隆史に拳銃を握らせた。
「俺は……」
三四郎の手は冷たく、なのに拳銃は湿っている。
「主水を殺すために」
鋭い言葉を三四郎が放った。
いまし言っておくかない、というくらいに切実に聞こえた。
「主水を殺す?」
隆史が聞き返した。
「殺すつもりじゃなかったのか」
三四郎が呆れたような顔をした。
まるで、自分の知らない自分すら知っているかのようだった。
いったい自分はなにを見透かされているのだろうか、と思った。
「俺は……」
「美保だけ死なせてのうのうと生きてるあのクソ野郎をぶち殺したいんじゃないのかよ」
三四郎は、まるで答えを先に言って、それに同調させるかのような口ぶりだった。
まるで、三四郎はなにもかもお見通し、といった態度だった。
「わからない……」
隆史は言った。ほんとうにわからなかった。
主水を憎んでいるのほんとうだ。けれど主水を殺したいのがほんとうなのかはわからなかった。
自分は、もっともっと奥まで潜らなくては、自分のほんとうを見つけることができない。自分はずっと、ぼんやりとした上っ面をほんとうの自分だと錯覚させられてきたような気がした。
「お前、じゃあなんで主水をずっと追いかけてるんだよ。つまんねえ本読んで、主水の出てるテレビ観て」
三四郎が言った。
たしかに隆史は、主水のあほみたいなスピリチュアル本を読み、バラエティ番組で主水が出てくるたびに、不愉快な顔をしながらも凝視してきた。
「ただ会いたいんだよ……」
隆史は言った。
三四郎はだまった。
誰に会いたいのかはわかっていた。主水ではない。そして、少し胸が痛んだ。
こいつは、いつまでたっても、死んでしまった相手にとらわれている。
どうしようもない。
時間が経てば風化するものなのに、なんとかして自ら食い止めようとしている。
なんて愚かなんだろう。
なのに、なんでこんなに、こいつのことが気にかかるのか。
他人のことならわかるというのに、三四郎もまた、己のことをなにもわかっちゃいなかった。
いや、わかろろうとすることをブロックしていた。
「もう一度、美保に会いたいんだ。いいたいんだよ」
隆史がしぼりだすように言葉を口にした。
「なにを」
三四郎が黙った。その言葉は、もしかして、自分が一番欲しい言葉なのではないだろうか。そう思った瞬間、急に嫉妬心が芽生えた。
これまでは抱いたこともなかたというのに。
死んだ人間になんて絶対に勝てる、と心の隅で思っていたのだ。
こいつはノンケだが、揺らいでいる。
そもそもウリをするやつは、どうとでもなる。
自分の思考が、隆史をここまで連れてきたのだ、と三四郎は思っていた。自分が願ったから。
心の底から願ったことが叶わないわけはない、と三四郎は確信していた。これは、宇宙の真理だと。
だが、人は心の底から願ったことを叶ってしまったら、これまでの人生が崩れてしまう、と経験がブロックしているのだ、と。
隆史が拳銃を抱え黙っているのを、三四郎は愛おしく思った。抱きしめてやりたいと思った。
自分にその資格がないこともわかっていた。
「ごめんなさい……、もう、こんなことしません……」
声がした。アラレがよろよろと立ち上がった。
深々と礼をして、
「さようなら」
とふらつきながら立ち去ろうとした。
「アラレさん」
隆史が言った。アラレがすぐに振り向いた。
「ごめ……、ありがとうございます……」
隆史は頭を下げ、それを見たアラレは首を傾げ、少しだけ笑った、ように見えた。
「ほれ」
三四郎は隆史に拳銃を差し出した。
「せめてこれ、もらってやれよ。プレゼントを貰う、っていうのも、相手に対する優しさだよ」
三四郎はアラレに、「いいよな」と返事を求めた。
アラレはただしゃくりあげている。
「優しくしたらつけあがりそうだけどな、この人。それに多分これから必要になるだろ」
三四郎が隆史に拳銃を握らせた。
「俺は……」
三四郎の手は冷たく、なのに拳銃は湿っている。
「主水を殺すために」
鋭い言葉を三四郎が放った。
いまし言っておくかない、というくらいに切実に聞こえた。
「主水を殺す?」
隆史が聞き返した。
「殺すつもりじゃなかったのか」
三四郎が呆れたような顔をした。
まるで、自分の知らない自分すら知っているかのようだった。
いったい自分はなにを見透かされているのだろうか、と思った。
「俺は……」
「美保だけ死なせてのうのうと生きてるあのクソ野郎をぶち殺したいんじゃないのかよ」
三四郎は、まるで答えを先に言って、それに同調させるかのような口ぶりだった。
まるで、三四郎はなにもかもお見通し、といった態度だった。
「わからない……」
隆史は言った。ほんとうにわからなかった。
主水を憎んでいるのほんとうだ。けれど主水を殺したいのがほんとうなのかはわからなかった。
自分は、もっともっと奥まで潜らなくては、自分のほんとうを見つけることができない。自分はずっと、ぼんやりとした上っ面をほんとうの自分だと錯覚させられてきたような気がした。
「お前、じゃあなんで主水をずっと追いかけてるんだよ。つまんねえ本読んで、主水の出てるテレビ観て」
三四郎が言った。
たしかに隆史は、主水のあほみたいなスピリチュアル本を読み、バラエティ番組で主水が出てくるたびに、不愉快な顔をしながらも凝視してきた。
「ただ会いたいんだよ……」
隆史は言った。
三四郎はだまった。
誰に会いたいのかはわかっていた。主水ではない。そして、少し胸が痛んだ。
こいつは、いつまでたっても、死んでしまった相手にとらわれている。
どうしようもない。
時間が経てば風化するものなのに、なんとかして自ら食い止めようとしている。
なんて愚かなんだろう。
なのに、なんでこんなに、こいつのことが気にかかるのか。
他人のことならわかるというのに、三四郎もまた、己のことをなにもわかっちゃいなかった。
いや、わかろろうとすることをブロックしていた。
「もう一度、美保に会いたいんだ。いいたいんだよ」
隆史がしぼりだすように言葉を口にした。
「なにを」
三四郎が黙った。その言葉は、もしかして、自分が一番欲しい言葉なのではないだろうか。そう思った瞬間、急に嫉妬心が芽生えた。
これまでは抱いたこともなかたというのに。
死んだ人間になんて絶対に勝てる、と心の隅で思っていたのだ。
こいつはノンケだが、揺らいでいる。
そもそもウリをするやつは、どうとでもなる。
自分の思考が、隆史をここまで連れてきたのだ、と三四郎は思っていた。自分が願ったから。
心の底から願ったことが叶わないわけはない、と三四郎は確信していた。これは、宇宙の真理だと。
だが、人は心の底から願ったことを叶ってしまったら、これまでの人生が崩れてしまう、と経験がブロックしているのだ、と。
隆史が拳銃を抱え黙っているのを、三四郎は愛おしく思った。抱きしめてやりたいと思った。
自分にその資格がないこともわかっていた。
「ごめんなさい……、もう、こんなことしません……」
声がした。アラレがよろよろと立ち上がった。
深々と礼をして、
「さようなら」
とふらつきながら立ち去ろうとした。
「アラレさん」
隆史が言った。アラレがすぐに振り向いた。
「ごめ……、ありがとうございます……」
隆史は頭を下げ、それを見たアラレは首を傾げ、少しだけ笑った、ように見えた。