『皆悩みを抱えています。助けはすぐ隣に。抱え込まないで』
道徳の授業で流れるビデオ。
隣の君がおもむろに席を立つから何となく追いかけてみた。
誰もいない倉庫の中で
「助けはすぐ隣に、それはどこ? 私はどこに行けば皆と同じになれる?」
そう言いながら涙を流す君の痛みを、僕はまだ知らない。



家は、安らぎの場所。
本当にそう?

「早く帰りたーい」
学校の休み時間、皆はため息と一緒にその言葉を吐くけど私はそうは思わない。
別に殴られてるわけでもネグレクトも受けてない。
ただ、自分の機嫌によってドアを閉じるその音が変わる人がいるだけ。



「なんで彼氏つくんないの」
幼馴染と夜道を散歩中、そんな話になった。
こいつはいつも人に甘えない。
なのにいつも苦しそうな顔をする。
「彼氏つくったら寂しい時に会ってくれるし、優しく包み込んでくれるのに」
そう聞く僕に、言った。

「彼氏じゃない、という事が私の中で大切な首輪なんだよ」



私は知っている。
この扉の向こうで、独りで泣いてうずくまっている子がいるということを。
私がその子の友達だということも。
こういう時、扉を開けて彼女の背中をさするべきなんでしょ?
大丈夫。あなたは頑張ってるよって言うべきなんでしょ?
分かってる。
分かっていながら私は、彼女に背を向けた。



ありがとうと言われるのが嬉しかった。
普段人よりも秀でてる事がない私が、私にしかできない事を見つけて感謝されるのがとても幸せだった。
その為なら自分を犠牲にだってする。
それで良かった。
そう思っていたのに。

気づいた時には、私に「お節介」とレッテルを貼って皆いなくなっていた。



自分で自分を傷つけ続ける君に、1番気になっていることを聞いてみた。
純粋な疑問。

「どうしてわざわざ見える位置に傷を付けるの?」
それを聞いて君は泣いたように笑った。

「見えない所でいくら傷つけられたって誰も抱きしめてくれないじゃない。だから、見える場所に傷を付けるの」
"助けてって"



▷怖い夢をみた
彼女でも無い君から深夜にこれだけ送られてきた。
なんだよこれ。どうでもよ。
▶そうなんだ
既読がついて話は終わった。
結局あいつが何を言いたかったのか、何でそんなことを報告してきたのか、今はもう知ることが出来ない。

あの連絡を最期に、君は写真の中だけの人になった。



▶怖い夢をみた
もう、限界だった。
死にたくて動悸がする毎日。
それでも日中はいつもの"私"を演じる毎日。
夢まで犯され眠ることすら出来なくなった毎日。
最後の叫びを、君に送ってしまった。
ごめんね。
ごめんね。どうでもよくて。

私は
誰かに「よく頑張ってるよ」って抱きしめて貰いたかった。



夜、寒くて。
そこに置いてあったブランケットをかける。
こんなんで温まるはずもなく、終わらない課題とストローが虚しく俯くエナジードリンクを横目にスマホを開いた。

SNSを見て虚しくなる。
私から見れば十分満たされているこの人たちは、それでもまだ「私を見て」と声をあげる。

……私だって。



友達が今日、腕を骨折してやってきた。何でも昨日階段から足を滑らせたんだと。
皆心配した。
「大丈夫?」「無理しちゃだめだよ」って。
薬飲んで痛みを和らげてるんだって。

ある日言ってしまった。
「私ね、精神科通ってるの。薬も飲んでる」
皆笑った。
「だから何?」「心配して欲しいの?」って



誰かにとっての1番になりたかった。
1番仲良し。
1番心を開いてる。
1番可愛い。
1番頑張ってる。
私の周りにいるどの子よりも、私より優れている皆よりも
「君が1番だよ」
そう言われたかった。

そんな夢は程遠くて、所詮私は
"めんどくさい" "うざい" ナンバーワン。
ほら、また独りぼっち。



「根に持つタイプなんだね」
目の前の君はそう言った。
あんなことがあって忘れられるわけが無い。

皆の前で指を刺されたこと。
勝手に他人と比べれられて笑いものにしてきたあいつら。
くしゃくしゃポイッてされてきた毎日。

全部全部吐き出しそうなのをグッと堪えて笑顔で。
「そうなんだよね〜」



いつも教室の隅で本ばかり読んでるあの子。
放課後1人で本を読む貴女に声を掛けてみた。
「どんな人がタイプ?」
小さく目を丸めて、応えてくれた。

「眠たい時、寝れば?じゃなくて、それだけ頑張ったんだねって言ってくれる人」
本を握る手に力がこもる。
「だから私は本の中でしか恋をしないの」



よく行くスーパーの店員さん。
その人の左腕には切り傷や打撲傷が無数に刻まれていた。
多分、自分でつけたんだろう。
「それどうしたの?」
まだ純粋な娘は傷を指さしてそんな事を聞いた。
口ごもる店員さんと私。
でも

「痛いの痛いの飛んでいけ〜!!」

その穢れのない言葉に店員さんは涙を零した。



夜、シャワーを捻って出てくるのは
今日の後悔と反省。
汚れを落とすためのドロドロとしたそれは、私の心をどんどん汚していく。
あの子の眉の動き、あの時の空気感、焦って口をついた一言、視線、声色。
全部全部私を絶望に突き落とすには十分すぎて。
蛇口をしめる頃には、もうボロボロだった。



「えぇ!? 別れた!?」
友人との飲みで、何となく近況を報告したら大事だ。
「だって、彼氏めっちゃあんたの事好きだったじゃん。プレゼントも高いのくれてたしさ」
うん。彼はきっと私の事が好きだった。
でも、違う。
「私は、私を好きという人じゃなくて大切と言ってくれる人と一緒にいたいんだよ」