校舎から香る梅雨の匂い。憂鬱で、幻想的で、仄暗い――まるで水底にいるようだ。




 声がした、露草と、誰かもうひとりいる。



 
 学園の小さな箱庭と呼ばれる六月の楽園で、神秘的な青と紫の紫陽花が花開く中に佇むふたりの少年。



 ……あれは誰。梅雨に、紅葉が咲いている。


「お前、もうすっかり馴染んでるよな。すれ違っても気づかんかった」


「それはほら、“露草”だからかな」





  雨音と混ざり合う声。



  それ以上は聞いていられなかった、遠ざかる、秘密から。


  


   あれは、露草じゃない。