6
「三船先輩のこと好きなの」
やばい、遅刻だ、とぼくと宮口は学校に向かって朝っぱらから走っていた。
「なわけ」
こんなときになにを言い出すのだ、きも、とは……じつはあんまり思っていない。あれ以来ぼくらは何事もなかったように過ごしている。
「三船先輩って、うちの学校の生徒じゃないぞ」
宮口が前を見たまま言った。「名簿調べたけど名前なかった」
「どういうこと」
ぼくは足を止めた。
「足動かせ。わからんけど。先輩たち……寮の大人たちはなんか隠している。そもそも寮生は遅刻したらどやされるのに、ずっと寝てるじゃん」
「そんな」
たしかに、今日もベッドに入ったまま、「いってら〜」と寝ぼけた声を出していた。俺基本三限からしかとっていない、って言っていたけれど、たしかに、うちはわりと進学率高めのがっつりしたカリキュラムのはずだ。
「お前、ほんとに付き合ってないの?」
宮口が念を押す。
「ないよ。なんで」
「だって前、気になってお前の部屋の前まで行ったら声聞こえてきたから。ペロペロって」
「それは」
なんてものを聞かれてしまったのか。
「付き合ってないのにペロペロしたの?」
「してない」
したけど。額をちょっとだけぺろってされたけど。
「ならよかった」
「え」
校門の前で加藤が立っていた。
「なんでいるんだ」
宮口が言った。
「どうせ遅刻したら連帯責任だろ。だから待ってた」
加藤もまた、校舎に向かって一緒に走った。
「真面目か」
「ああ、ありがとう」
「そこ感謝するとこかな」
二人のやりとりがおかしかった。「まあいいか。言いたかったら、ありがとうもごめんも言っていいんだよ」
ぼくは自分に言うように、言った。
「遅刻するぞ」
宮口がぼくの肩を叩く。
「待ってやったのに先行くなよ」
加藤が追い越そうとダッシュした。
「おーい、早くこいよー」
三階の教室の窓から千秋が手を振っていた。
チャイムが鳴り始めた。先生が入ってくるまでに教室につかなくては。
「さて、入寮してから二週間、なぜ宴を開くのがこんなに遅かったか? それは、この寮の伝統、新人による余興をしてもらうためだったー!」
志村先輩のマイクパフォーマンスに、大広間に集まった寮生たちが雄叫びをあげた。
つまり、歓迎パーティーという名の一年生の持ちネタ発表会なわけである。
「やっぱり気に食わない。なんでおれがあーちゃんなんだ」
宮口が不平を漏らした。
ぼくらはトップバッターとして広間の外で準備をしていた。
「いやべつに誰でもいいでしょ。じゃあのっちで」
ぼくは言った。
「立ち位置が違う」
「衣装を凝るべきじゃなかったのか」
ぼくらのやりとりを傍観していた加藤が口をひらいた。たしかに。結局ジャージでの披露だ。
「そんな時間なかったし」
「そもそもなんで俺たちはPerfumeなんだ」
宮口が言った。なんだかぼくらも打ち解けてきたなあ、とおかしい。
「志村先輩からのリクエスト。なんだか十年くらい続いている恒例らしい、で、俺らはくじで負けた、以上」
宮口はまだぶつくさ言っている。しかし練習のとき、一番こだわりを見せたのは宮口である。人というものはわからないものだ。
「俺が上級生になったら、絶対新入生にやらせてやる」
宮口が憎々しげに言う。
「これが負の連鎖というやつか」
加藤が言った。
「ところで志村先輩と稲葉先輩いっつもくっついてるよね」
志村先輩に稲葉先輩は寄り添っている。
「誰?」
宮口が言った。
「寮長と副寮長の距離感バグってない?」
ぼくが言うと、
「何を言っているんだ? 誰だ稲葉って」
加藤が言った。
「え」
えええ?
「さあ、今年のPerfumeはどんな仕上がりだ? 用意はいいかーっ」
志村先輩がぼくらを呼ぶ。
一番後ろで三船先輩がにやにやしながら手を振っていた。
ようこそ、アカツキ寮へ!
了?
「三船先輩のこと好きなの」
やばい、遅刻だ、とぼくと宮口は学校に向かって朝っぱらから走っていた。
「なわけ」
こんなときになにを言い出すのだ、きも、とは……じつはあんまり思っていない。あれ以来ぼくらは何事もなかったように過ごしている。
「三船先輩って、うちの学校の生徒じゃないぞ」
宮口が前を見たまま言った。「名簿調べたけど名前なかった」
「どういうこと」
ぼくは足を止めた。
「足動かせ。わからんけど。先輩たち……寮の大人たちはなんか隠している。そもそも寮生は遅刻したらどやされるのに、ずっと寝てるじゃん」
「そんな」
たしかに、今日もベッドに入ったまま、「いってら〜」と寝ぼけた声を出していた。俺基本三限からしかとっていない、って言っていたけれど、たしかに、うちはわりと進学率高めのがっつりしたカリキュラムのはずだ。
「お前、ほんとに付き合ってないの?」
宮口が念を押す。
「ないよ。なんで」
「だって前、気になってお前の部屋の前まで行ったら声聞こえてきたから。ペロペロって」
「それは」
なんてものを聞かれてしまったのか。
「付き合ってないのにペロペロしたの?」
「してない」
したけど。額をちょっとだけぺろってされたけど。
「ならよかった」
「え」
校門の前で加藤が立っていた。
「なんでいるんだ」
宮口が言った。
「どうせ遅刻したら連帯責任だろ。だから待ってた」
加藤もまた、校舎に向かって一緒に走った。
「真面目か」
「ああ、ありがとう」
「そこ感謝するとこかな」
二人のやりとりがおかしかった。「まあいいか。言いたかったら、ありがとうもごめんも言っていいんだよ」
ぼくは自分に言うように、言った。
「遅刻するぞ」
宮口がぼくの肩を叩く。
「待ってやったのに先行くなよ」
加藤が追い越そうとダッシュした。
「おーい、早くこいよー」
三階の教室の窓から千秋が手を振っていた。
チャイムが鳴り始めた。先生が入ってくるまでに教室につかなくては。
「さて、入寮してから二週間、なぜ宴を開くのがこんなに遅かったか? それは、この寮の伝統、新人による余興をしてもらうためだったー!」
志村先輩のマイクパフォーマンスに、大広間に集まった寮生たちが雄叫びをあげた。
つまり、歓迎パーティーという名の一年生の持ちネタ発表会なわけである。
「やっぱり気に食わない。なんでおれがあーちゃんなんだ」
宮口が不平を漏らした。
ぼくらはトップバッターとして広間の外で準備をしていた。
「いやべつに誰でもいいでしょ。じゃあのっちで」
ぼくは言った。
「立ち位置が違う」
「衣装を凝るべきじゃなかったのか」
ぼくらのやりとりを傍観していた加藤が口をひらいた。たしかに。結局ジャージでの披露だ。
「そんな時間なかったし」
「そもそもなんで俺たちはPerfumeなんだ」
宮口が言った。なんだかぼくらも打ち解けてきたなあ、とおかしい。
「志村先輩からのリクエスト。なんだか十年くらい続いている恒例らしい、で、俺らはくじで負けた、以上」
宮口はまだぶつくさ言っている。しかし練習のとき、一番こだわりを見せたのは宮口である。人というものはわからないものだ。
「俺が上級生になったら、絶対新入生にやらせてやる」
宮口が憎々しげに言う。
「これが負の連鎖というやつか」
加藤が言った。
「ところで志村先輩と稲葉先輩いっつもくっついてるよね」
志村先輩に稲葉先輩は寄り添っている。
「誰?」
宮口が言った。
「寮長と副寮長の距離感バグってない?」
ぼくが言うと、
「何を言っているんだ? 誰だ稲葉って」
加藤が言った。
「え」
えええ?
「さあ、今年のPerfumeはどんな仕上がりだ? 用意はいいかーっ」
志村先輩がぼくらを呼ぶ。
一番後ろで三船先輩がにやにやしながら手を振っていた。
ようこそ、アカツキ寮へ!
了?