その古びた建物に入ると、机に座った二人が迎えた。一人は笑顔を浮かべて迎えてくれて、もう一人はここにいるのが退屈でたまらないというふうに、明後日の方向を見ていた。
「新入生?」
 と、二人のうちの、笑顔を浮かべているほうが声をかけた。どうやら寮生らしい。
「はい」
「お名前を」
「木村朔です」
 僕は言った。
「はいはい、部屋はね」
 とその人が書類を出そうとしたとき、隣にいた人がぼくをじっと見ていたので、
「はじめまして」
 と挨拶すると、二人はびっくりした顔をした。
「きみ」
 笑顔のほうが、急に真剣な顔をした。
「面白いなあ」
 今度は反対に、退屈しているほうが笑顔になった。
「どうも」
「きみは最後の部屋だね。くるのがいちばんびりっけつだったから」
 はじめ笑顔だったほうが言った。
「一番端っこ」
 ぼくは言った。わりと広めの二階建てのこのオンボロのはじっこ。
「そう、入り口から一番遠い部屋。遅刻しないようにね」
「まあ、でも、一番はしっこってことは、なんでもできるから」
 はじめ退屈していたほうが付け加えた。
「頼むよ」
 そう言ってクリアファイルに入った書類をぼくに渡した。
「きみは、かわいいね」
 笑顔のほうが言った。
「はあ」 
 としか答えられない。たしかにぼくは、幼い顔立ちをしていることは、否定できない。先月まで中学生だった、という以上に顔立ちがなんとなく子供っぽい。苦労を知らない顔をしてる、と以前誰かに言われてむっとしたことを思い出した。苦労してないなんて、なんにもわかってないくせに、よく言えたもんだ。
「ちょっと」
 退屈していたほうが笑顔のほうを小突いた。こんどは退屈、というよりイラついているらしい。
「うん、きみがいい。これから頼んだよ」
 笑顔のほうは突かれるのを無視して、何度も頷き、そしてぼくに手を伸ばした。
「ぼくは寮長の志村。隣にいるのは、稲葉、言うなれば、非公認の副寮長みたいなもんだ。よろしくね、そして」
 アカツキ寮へようこそ。