俺は浅宮と少し距離を取ることにした。浅宮とはもとから一緒にいたわけじゃないし、LINEの返事をわざとしなかったり、なるべく浅宮と目を合わせないようにしたり、その程度。
浅宮も何か勘づいたのか、前みたいに俺に話しかけてこなくなった。少し寂しい、いやかなり寂しいけど傷口が浅いうちに引き返したほうがいい。浅宮と一緒にいればいるほど浅宮をどんどん好きになるだけだ。
「三倉、帰ろ」
背後から有栖に肩を叩かれた。俺は「うん」と頷き、さっさと帰り支度を済ませる。
一緒にいる有栖の様子は何も変わりはない。念のため「最近は誰かに告白された?」と有栖に確認したら、「そんなのないよ。三倉が思うほど俺はモテないから」なんて返された。
有栖は謙遜するけれど、俺は知ってる。みんな密かに有栖が好きで、告白したいけどできないだけなんだってこと。
でも、まぁ、有栖の様子から察するに、浅宮はまだ有栖には告白していないようだ。
有栖とふたりでバスに乗って、最寄り駅のバスの終点にたどり着き、そこから駅に向かって歩いていたときだ。
「そういえばさ——」
有栖に話しかけようと横を見たら、さっきまで俺の隣にいたはずの有栖がいない! 慌てて振り返ると有栖が男三人に絡まれてる。俺たちと同じ制服を着ているから同じ高校のようだけど、顔ぶれから同級生じゃない。多分三年生だ。
そのうちのひとりが有栖の腕を掴んで嫌がる有栖を無理矢理に路地裏へと引っ張っている。
「おいっ! 何してんだよっ!」
俺は男たちのもとに駆けていって怒鳴り込む。そして有栖を掴んでいた男の腕を捻って、有栖を引き剥がし、有栖を庇うようにして有栖の前に立つ。
「お前誰? 俺は有栖に話があるんだよ、お前なんかに用はない。あっち行けよっ!」
睨みつけられるが、俺も睨み返す。
ここで引くわけないだろ。こんな乱暴そうな奴らに連れて行かれたら有栖が何されるかわからないのに。
俺は睨んでいるのに、相手の三人は余裕そうに俺を嘲笑ってる。
だ、だよな……。はっきりいって俺は喧嘩はできないし、どう見てもザコキャラだ。
「こんな奴ほっといて、ちょっと付き合えよ有栖」
呆気なく俺を突き飛ばして、有栖の肩に腕を回す。有栖も抵抗するが、三人はしつこく絡んでくる。
「ふざけっ……んなっ!」
俺は再びそいつに掴みかかり、有栖に触れる手を退けようと必死になる。
昔から俺は有栖と一緒にこういう面倒臭い奴らに対抗してた。性的に興味を持たれたり、嫉妬されたり、有栖は目をつけられることが多かった。でも、俺は諦めることだけはしない。いつだって有栖を守ってきた。
やり合う俺たちのところへ、一台の自転車が猛スピードで近づいてきた。
自転車は、そのまま先輩三人にめがけて突っ込んでくる!
「うわっ!!」
さすがに先輩たちもおののいてその場から逃げる。自転車はぶつかる寸前で急ブレーキ。
「あー、すいませんブレーキ調子悪くて止まれなくて突っ込んじゃいました」
浅宮だ。浅宮はふざけたことを言ってるけど、さっきしっかり急ブレーキできてたじゃないか。
これってまさか有栖を助けにきた……?
「先輩。このふたりは俺の友達なんすけど、俺の友達に何か用ですか」
「いっ、いや別に何も……」
「ああ。ちょっと話をしてただけで……」
なんだ? 構図がおかしいぞ。二年の浅宮が先輩三人を見下ろしているようだ。三人が浅宮に怯えてるみたいにみえる。
「そうですか。ならいいんすけど、このふたりに手を出したら、俺、今度こそブチ切れると思うんでそこんとこよろしくお願いします」
「わかってるよ浅宮」
「ごめんごめんっ。じゃあ……」
えっ、おいおい! 浅宮の睨みひとつで三人がそそくさと退散していく。
浅宮すごいな! な、なにをしたら先輩たちがああなるんだ……?
三人がいなくなり、浅宮は俺たちのほうに振り向いた。さっきまで先輩たちに対してすごい圧だったのに、俺たちには優しく微笑んでる。
「大丈夫か? 怪我はない?」
掴まれた右腕が痛むのか、左手で右腕を気にする様子を見せた有栖を浅宮が心配している。
「大丈夫……」
有栖が浅宮を見上げた。
「あ、浅宮。ありがとう……」
少し照れながらも浅宮に礼を言う有栖。
「全然いいよ、大したことじゃない。たまたま通りかかってよかったよ」
ああ。浅宮の優しい笑顔が有栖に向けられている。
これって、結構イイ雰囲気なんじゃ……。
悪い奴に絡まれた有栖を助けた浅宮。有栖は浅宮に感謝して、浅宮に好感を持つ。そこから始まるふたりのラブストーリー。
ヤバい。
俺は今すぐこの場から消えなくちゃ。
なんとなくふたりから距離をとる。うまく離れたつもりなのに、浅宮に「三倉?」と声をかけられてしまった。
「ごめんっ! 俺用事思い出した! 有栖先に帰って!」
「えっ、なんで?」
俺の奇行に有栖が驚いている。ごめん有栖。浅宮と有栖がふたりきりになる絶好のチャンスなんだ。ちょっと不自然だけどなんでもいいから俺はここからいなくなるから。
「浅宮っ」
俺は今度は浅宮を見た。浅宮と久しぶりに目が合った。キスの練習をした時以来かな……。
『頑張れよ』
有栖がいるから声に出せないけど、口パクで浅宮に言ってやる。
そのまま俺は振り返らずに走り去る。
「おい、三倉っ!」
浅宮が俺の名前を呼んだ気がした。やっぱ空耳かもしれない。それでも俺はとにかく走った。
行く当てなんかないけど、とりあえずいなくならなきゃ。
俺は走れるところまで走った。
やがて俺の目の前に現れたのはいつか浅宮と来た川沿いの遊歩道だった。
浅宮も何か勘づいたのか、前みたいに俺に話しかけてこなくなった。少し寂しい、いやかなり寂しいけど傷口が浅いうちに引き返したほうがいい。浅宮と一緒にいればいるほど浅宮をどんどん好きになるだけだ。
「三倉、帰ろ」
背後から有栖に肩を叩かれた。俺は「うん」と頷き、さっさと帰り支度を済ませる。
一緒にいる有栖の様子は何も変わりはない。念のため「最近は誰かに告白された?」と有栖に確認したら、「そんなのないよ。三倉が思うほど俺はモテないから」なんて返された。
有栖は謙遜するけれど、俺は知ってる。みんな密かに有栖が好きで、告白したいけどできないだけなんだってこと。
でも、まぁ、有栖の様子から察するに、浅宮はまだ有栖には告白していないようだ。
有栖とふたりでバスに乗って、最寄り駅のバスの終点にたどり着き、そこから駅に向かって歩いていたときだ。
「そういえばさ——」
有栖に話しかけようと横を見たら、さっきまで俺の隣にいたはずの有栖がいない! 慌てて振り返ると有栖が男三人に絡まれてる。俺たちと同じ制服を着ているから同じ高校のようだけど、顔ぶれから同級生じゃない。多分三年生だ。
そのうちのひとりが有栖の腕を掴んで嫌がる有栖を無理矢理に路地裏へと引っ張っている。
「おいっ! 何してんだよっ!」
俺は男たちのもとに駆けていって怒鳴り込む。そして有栖を掴んでいた男の腕を捻って、有栖を引き剥がし、有栖を庇うようにして有栖の前に立つ。
「お前誰? 俺は有栖に話があるんだよ、お前なんかに用はない。あっち行けよっ!」
睨みつけられるが、俺も睨み返す。
ここで引くわけないだろ。こんな乱暴そうな奴らに連れて行かれたら有栖が何されるかわからないのに。
俺は睨んでいるのに、相手の三人は余裕そうに俺を嘲笑ってる。
だ、だよな……。はっきりいって俺は喧嘩はできないし、どう見てもザコキャラだ。
「こんな奴ほっといて、ちょっと付き合えよ有栖」
呆気なく俺を突き飛ばして、有栖の肩に腕を回す。有栖も抵抗するが、三人はしつこく絡んでくる。
「ふざけっ……んなっ!」
俺は再びそいつに掴みかかり、有栖に触れる手を退けようと必死になる。
昔から俺は有栖と一緒にこういう面倒臭い奴らに対抗してた。性的に興味を持たれたり、嫉妬されたり、有栖は目をつけられることが多かった。でも、俺は諦めることだけはしない。いつだって有栖を守ってきた。
やり合う俺たちのところへ、一台の自転車が猛スピードで近づいてきた。
自転車は、そのまま先輩三人にめがけて突っ込んでくる!
「うわっ!!」
さすがに先輩たちもおののいてその場から逃げる。自転車はぶつかる寸前で急ブレーキ。
「あー、すいませんブレーキ調子悪くて止まれなくて突っ込んじゃいました」
浅宮だ。浅宮はふざけたことを言ってるけど、さっきしっかり急ブレーキできてたじゃないか。
これってまさか有栖を助けにきた……?
「先輩。このふたりは俺の友達なんすけど、俺の友達に何か用ですか」
「いっ、いや別に何も……」
「ああ。ちょっと話をしてただけで……」
なんだ? 構図がおかしいぞ。二年の浅宮が先輩三人を見下ろしているようだ。三人が浅宮に怯えてるみたいにみえる。
「そうですか。ならいいんすけど、このふたりに手を出したら、俺、今度こそブチ切れると思うんでそこんとこよろしくお願いします」
「わかってるよ浅宮」
「ごめんごめんっ。じゃあ……」
えっ、おいおい! 浅宮の睨みひとつで三人がそそくさと退散していく。
浅宮すごいな! な、なにをしたら先輩たちがああなるんだ……?
三人がいなくなり、浅宮は俺たちのほうに振り向いた。さっきまで先輩たちに対してすごい圧だったのに、俺たちには優しく微笑んでる。
「大丈夫か? 怪我はない?」
掴まれた右腕が痛むのか、左手で右腕を気にする様子を見せた有栖を浅宮が心配している。
「大丈夫……」
有栖が浅宮を見上げた。
「あ、浅宮。ありがとう……」
少し照れながらも浅宮に礼を言う有栖。
「全然いいよ、大したことじゃない。たまたま通りかかってよかったよ」
ああ。浅宮の優しい笑顔が有栖に向けられている。
これって、結構イイ雰囲気なんじゃ……。
悪い奴に絡まれた有栖を助けた浅宮。有栖は浅宮に感謝して、浅宮に好感を持つ。そこから始まるふたりのラブストーリー。
ヤバい。
俺は今すぐこの場から消えなくちゃ。
なんとなくふたりから距離をとる。うまく離れたつもりなのに、浅宮に「三倉?」と声をかけられてしまった。
「ごめんっ! 俺用事思い出した! 有栖先に帰って!」
「えっ、なんで?」
俺の奇行に有栖が驚いている。ごめん有栖。浅宮と有栖がふたりきりになる絶好のチャンスなんだ。ちょっと不自然だけどなんでもいいから俺はここからいなくなるから。
「浅宮っ」
俺は今度は浅宮を見た。浅宮と久しぶりに目が合った。キスの練習をした時以来かな……。
『頑張れよ』
有栖がいるから声に出せないけど、口パクで浅宮に言ってやる。
そのまま俺は振り返らずに走り去る。
「おい、三倉っ!」
浅宮が俺の名前を呼んだ気がした。やっぱ空耳かもしれない。それでも俺はとにかく走った。
行く当てなんかないけど、とりあえずいなくならなきゃ。
俺は走れるところまで走った。
やがて俺の目の前に現れたのはいつか浅宮と来た川沿いの遊歩道だった。