浅宮が有栖のことを好きなんだろうなというのはうっすら気がついていた。
俺と有栖は幼馴染で親友だ。俺はいつも有栖と一緒にいるから、浅宮がチラチラこちらを見てる熱っぽい視線を察していた。
こういうのには昔から慣れている。勉強も運動もできてさらに美形の有栖はいつだって注目の的。有栖と一緒にいるとみんな振り返る。
まぁ、浅宮も校内で有名になるくらい顔の整ってる奴だし、もしふたりが並んだとしたらものすごく絵になるな、なんて考えた。
顔がいいってそれだけで得だよな。
「あ、あの、三倉」
放課後、浅宮に声をかけられた。浅宮に話しかけられることなんて滅多にないからちょっとだけ驚いた。
「なに?」
「あのさ、お前に話があってさ。ちょっとだけ俺に付き合ってくれない?」
浅宮は髪をいじりながら恥ずかしそうに視線を逸らした。
なんだろう……? 浅宮が俺に話があるなんて……。
俺は浅宮に呼ばれて誰もいない教室でふたりきりになる。
「み、三倉って有栖と仲、いいよな……?」
浅宮はなんだか様子がおかしい。ちょっと緊張してるのかな。
「有栖? えっと、俺たち小学校からずっと一緒なんだ」
なんで浅宮は有栖の話を……。
「そ、そっか。どうりでいつもふたり一緒にいると思ったよ。あ、有栖ってやっぱり昔からあんなふうに優秀だったのか……?」
浅宮は俺を呼び出したのに、さっきから有栖のことばかり訊いてくる。
——わかった。こいつ、俺から有栖の情報を聞き出そうとしてるんだ。恥ずかしくて有栖本人には直接聞くことができないから。
こんな目に遭うのはこれが初めてじゃない。昔からそうだ。バレンタインに呼び出されたと思ったら「このチョコ有栖くんに渡してくださいっ」とか、俺をダシにして実は有栖を遊びに誘いたいだけだったとか、そんなのばっかりだ。
「有栖はすごいよ。中学の時もモテモテだしさ、あの顔で性格もいいし頭もいいしさ」
嘘じゃない。有栖は俺の幼馴染とは思えないくらいに優秀なんだ。いくら顔がいい浅宮でも敵わないんだぞ。
「へぇ……やっぱりモテるよな……幼馴染だし、ライバルとしては最強だな……」
浅宮はなんだかブツブツと独り言を呟いている。
「有栖はああ見えて、実はホラー映画が好きなんだ。もし映画に誘うならそういう映画だと喜ぶんじゃないかな」
どうだ? 浅宮。なかなか有力な有栖の情報を流してやったぞ。有栖を映画デートに誘うときの参考にするがいい。
「えっ! ホラー映画?!」
「意外でしょ?」
「それって『怖い!』とかなんとか言って抱きついちゃうパターンありじゃん……。三倉は有栖と一緒に映画観に行ったことあるのか……?」
「え? まぁ、何回か……」
「うわ、羨ましいな……」
羨ましい、か。まぁ、確かに有栖と映画に行けるのなんて俺くらいなものかもしれないな。
「そうだ、浅宮。このあと時間ある? 有栖の好きなカフェが学校の近くにあるから教えてあげようか? 一緒に行く?」
「えっ!! それって、俺と三倉のふたりだけでってことだよな?!」
ん……? ああ。有栖は来ないのかってことなんだろうな。あいにく今日、有栖は部活&塾で大忙しだ。
「そうだよ。有栖は来ない。それでもいいな——」
「行くっ! 行くに決まってるだろ! 急にドキドキしてきた……」
浅宮はすごいノリ気だな。そんなに有栖が好きなのかな……? まぁ、推しの通ってる店に行くみたいなものだからドキドキしてるのか。
俺と浅宮は、目的のカフェに到着して向かい合わせで座っている。立地の割に店内は広々としており、木の温かみを感じるような優しいインテリアが有栖の好みの店だ。
「ここは有栖が気に入ってる店で、俺もよく連れてこられるんだ」
通学路から少し外れたところにあるカフェで、値段も安めでゆっくりできるので時々ここで有栖とダラダラ喋ったりスマホゲームをしたりしている。
「ここに来れば会えるかもしれないんだな……」
そっか。浅宮はここにくれば偶然を装って有栖に会えるかもしれないって思うんだな。
「そうだ。今度俺と有栖がこの店に来るときに浅宮にこっそり教えようか?」
「え! だって俺、三倉の連絡先知らないし……」
「LINEでも交換する?」
「いいの?!」
「うん」
「うっそ、すげぇ嬉しい! どうやったら連絡先聞き出せるか昨日SNSで調べまくったのに、三倉のほうからそんなこと言ってくれるなんて思いもしなかったよ」
何を陰キャみたいなこと言ってるんだよ、お前学校でたくさん友達いるだろ。
俺と浅宮は連絡先を交換する。
「やっば、嬉しすぎる。これって俺からも三倉に連絡していいってことだよな……?」
「え? いいけど……」
当たり前だ。こっちから一方的に連絡を受ける気でいたのか?
「俺、今日勇気出して三倉に声かけてよかった。さっきから楽しすぎる」
「まだ店に来ただけで何も飲んだり食ったりしてないけど……」
なんだかわからないが、浅宮が楽しいならいいか。
「あ、あの……三倉は何をするのが好きなの……? 映画とか、カラオケとか、遊園地とかさ……」
え? なんで有栖じゃなくて俺のことを聞いてくるんだ?
あー、なる。有栖のことばっかり聞くのもあからさまだし、俺に悪いと思ったんだな。
「俺? 俺は映画が好きだな。でもホラーよりはもっとこう、アクション系が好きなんだけどね」
「そうなんだ。それじゃ俺もアクション系を好きになるわ」
意味がわからないぞ。なぜ趣味を揃えようとする……?
「あっ、あとは? すっ、好きな芸能人とかいる?」
「あー。お笑いのミドルっていうコンビいるじゃん? 俺も有栖も最近結構ハマってるんだよね」
ほら、さりげなく有栖情報も混ぜてやったぞ。喜べ浅宮。
「そいつら知ってるわ! こないだTVで見たコントがマジ面白くてさ」
「浅宮も見たのか? あれさ——」
そこから延々と色んな話を浅宮とした。
話してみると浅宮と案外気が合った。浅宮は話も面白いし、浅宮と話しているとすごく盛り上がって、あっという間に時間が経ってしまった。
それから普通に浅宮と友達になった。浅宮は結構マメな男らしく、『今なにしてる?』とか『面白い漫画見つけたから今度貸すよ』とか『おやすみ』とか、ちょいちょい俺にLINEを送ってくる。
浅宮のいいところは見た目だけだと思ってたけど、話してみたら気さくでいい奴だな。
俺と有栖は幼馴染で親友だ。俺はいつも有栖と一緒にいるから、浅宮がチラチラこちらを見てる熱っぽい視線を察していた。
こういうのには昔から慣れている。勉強も運動もできてさらに美形の有栖はいつだって注目の的。有栖と一緒にいるとみんな振り返る。
まぁ、浅宮も校内で有名になるくらい顔の整ってる奴だし、もしふたりが並んだとしたらものすごく絵になるな、なんて考えた。
顔がいいってそれだけで得だよな。
「あ、あの、三倉」
放課後、浅宮に声をかけられた。浅宮に話しかけられることなんて滅多にないからちょっとだけ驚いた。
「なに?」
「あのさ、お前に話があってさ。ちょっとだけ俺に付き合ってくれない?」
浅宮は髪をいじりながら恥ずかしそうに視線を逸らした。
なんだろう……? 浅宮が俺に話があるなんて……。
俺は浅宮に呼ばれて誰もいない教室でふたりきりになる。
「み、三倉って有栖と仲、いいよな……?」
浅宮はなんだか様子がおかしい。ちょっと緊張してるのかな。
「有栖? えっと、俺たち小学校からずっと一緒なんだ」
なんで浅宮は有栖の話を……。
「そ、そっか。どうりでいつもふたり一緒にいると思ったよ。あ、有栖ってやっぱり昔からあんなふうに優秀だったのか……?」
浅宮は俺を呼び出したのに、さっきから有栖のことばかり訊いてくる。
——わかった。こいつ、俺から有栖の情報を聞き出そうとしてるんだ。恥ずかしくて有栖本人には直接聞くことができないから。
こんな目に遭うのはこれが初めてじゃない。昔からそうだ。バレンタインに呼び出されたと思ったら「このチョコ有栖くんに渡してくださいっ」とか、俺をダシにして実は有栖を遊びに誘いたいだけだったとか、そんなのばっかりだ。
「有栖はすごいよ。中学の時もモテモテだしさ、あの顔で性格もいいし頭もいいしさ」
嘘じゃない。有栖は俺の幼馴染とは思えないくらいに優秀なんだ。いくら顔がいい浅宮でも敵わないんだぞ。
「へぇ……やっぱりモテるよな……幼馴染だし、ライバルとしては最強だな……」
浅宮はなんだかブツブツと独り言を呟いている。
「有栖はああ見えて、実はホラー映画が好きなんだ。もし映画に誘うならそういう映画だと喜ぶんじゃないかな」
どうだ? 浅宮。なかなか有力な有栖の情報を流してやったぞ。有栖を映画デートに誘うときの参考にするがいい。
「えっ! ホラー映画?!」
「意外でしょ?」
「それって『怖い!』とかなんとか言って抱きついちゃうパターンありじゃん……。三倉は有栖と一緒に映画観に行ったことあるのか……?」
「え? まぁ、何回か……」
「うわ、羨ましいな……」
羨ましい、か。まぁ、確かに有栖と映画に行けるのなんて俺くらいなものかもしれないな。
「そうだ、浅宮。このあと時間ある? 有栖の好きなカフェが学校の近くにあるから教えてあげようか? 一緒に行く?」
「えっ!! それって、俺と三倉のふたりだけでってことだよな?!」
ん……? ああ。有栖は来ないのかってことなんだろうな。あいにく今日、有栖は部活&塾で大忙しだ。
「そうだよ。有栖は来ない。それでもいいな——」
「行くっ! 行くに決まってるだろ! 急にドキドキしてきた……」
浅宮はすごいノリ気だな。そんなに有栖が好きなのかな……? まぁ、推しの通ってる店に行くみたいなものだからドキドキしてるのか。
俺と浅宮は、目的のカフェに到着して向かい合わせで座っている。立地の割に店内は広々としており、木の温かみを感じるような優しいインテリアが有栖の好みの店だ。
「ここは有栖が気に入ってる店で、俺もよく連れてこられるんだ」
通学路から少し外れたところにあるカフェで、値段も安めでゆっくりできるので時々ここで有栖とダラダラ喋ったりスマホゲームをしたりしている。
「ここに来れば会えるかもしれないんだな……」
そっか。浅宮はここにくれば偶然を装って有栖に会えるかもしれないって思うんだな。
「そうだ。今度俺と有栖がこの店に来るときに浅宮にこっそり教えようか?」
「え! だって俺、三倉の連絡先知らないし……」
「LINEでも交換する?」
「いいの?!」
「うん」
「うっそ、すげぇ嬉しい! どうやったら連絡先聞き出せるか昨日SNSで調べまくったのに、三倉のほうからそんなこと言ってくれるなんて思いもしなかったよ」
何を陰キャみたいなこと言ってるんだよ、お前学校でたくさん友達いるだろ。
俺と浅宮は連絡先を交換する。
「やっば、嬉しすぎる。これって俺からも三倉に連絡していいってことだよな……?」
「え? いいけど……」
当たり前だ。こっちから一方的に連絡を受ける気でいたのか?
「俺、今日勇気出して三倉に声かけてよかった。さっきから楽しすぎる」
「まだ店に来ただけで何も飲んだり食ったりしてないけど……」
なんだかわからないが、浅宮が楽しいならいいか。
「あ、あの……三倉は何をするのが好きなの……? 映画とか、カラオケとか、遊園地とかさ……」
え? なんで有栖じゃなくて俺のことを聞いてくるんだ?
あー、なる。有栖のことばっかり聞くのもあからさまだし、俺に悪いと思ったんだな。
「俺? 俺は映画が好きだな。でもホラーよりはもっとこう、アクション系が好きなんだけどね」
「そうなんだ。それじゃ俺もアクション系を好きになるわ」
意味がわからないぞ。なぜ趣味を揃えようとする……?
「あっ、あとは? すっ、好きな芸能人とかいる?」
「あー。お笑いのミドルっていうコンビいるじゃん? 俺も有栖も最近結構ハマってるんだよね」
ほら、さりげなく有栖情報も混ぜてやったぞ。喜べ浅宮。
「そいつら知ってるわ! こないだTVで見たコントがマジ面白くてさ」
「浅宮も見たのか? あれさ——」
そこから延々と色んな話を浅宮とした。
話してみると浅宮と案外気が合った。浅宮は話も面白いし、浅宮と話しているとすごく盛り上がって、あっという間に時間が経ってしまった。
それから普通に浅宮と友達になった。浅宮は結構マメな男らしく、『今なにしてる?』とか『面白い漫画見つけたから今度貸すよ』とか『おやすみ』とか、ちょいちょい俺にLINEを送ってくる。
浅宮のいいところは見た目だけだと思ってたけど、話してみたら気さくでいい奴だな。