――午前九時。
クレイダー九十九号は、とある街の駅に着きました。
扉が開き、列車の中から運転手が降りて来ます。
黒い髪に紺碧の瞳を持つ、背の高い青年でした。
運転手の印である白いキャスケット帽に、緑色のつなぎ。右手にはガイドブックを携えています。
青年は街のメイン通りを進むと、開店準備をしていた八百屋の店主に声をかけます。
「おはようございます。はじめまして。僕はクレイダーの運転手で、クロルといいます。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが……」
口髭をたくわえた男性店主は、彼を見るなり少し顔をしかめました。
「いらっしゃい。背中のそれ、本物かい? 珍しいね、黒い羽なんて」
「よく言われます。珍しいと言えば……そこに並んでいるスイカもずいぶんと立派ですね。こんなに大きなもの、初めて見ました。ご主人の育て方が上手いんでしょうね」
「え? あぁ、そうかい? へへ、ありがとうよ。で、聞きたいことってのは?」
「ああ、すみません。実は、僕の大切な人が住んでいる街を探していまして」
「大切な人? それは一体、どんな人なんだい?」
彼はにこっと、柔らかな笑みを浮かべてから……こう言いました。
「――天使です。天使の住む街、知りませんか?」
―完―