「彼女連れでスケボーとはまったくけしからんなぁ月ぃ。朝陽ちゃんも久しぶりー、また可愛くなったねぇ」


 公園に到着した昭彦さんにも声をかけられる。


 「も〜、おじさんが若いカップルの邪魔しないの〜」と、昭彦さんのとなりには、なんとお腹を膨らませた妊婦の明里さんがいた。


 「え、うそ、明里さん、おめでとうございます」


 私は喜びと驚きが混ざりながら明里さんに駆け寄った。以前、本屋で明里さんが不妊治療を始めることは知っていたので勝手だけど泣きそうになるくらい嬉しい。


 「もうすぐ産まれるの。でも出産予定日が過ぎちゃってね、医者から早く産むために歩けって言われてるの、だから今日は旦那のスケボーの付き添いでウォーキングよ、あ、良かったらお腹さわってみる?」


 「え、いいんですか?」


 「良かったら、彼くんもどーぞ」


 明里さんがそう言ってくれたので、私と月はおそるおそる明里さんのお腹をさわる。


 お腹がこんなぱんぱんになって、この中に赤ちゃんが入ってるなんて生命の不思議だ。


 「なんか、すげえ」「うん、本当にすごい」と私たちは感動を言葉にしきれない。人間はこうやってみんな産まれてくるんだ。


 「出産ってさ、鼻からスイカが出るくらい痛いんだってさぁ〜」と、明里さんが教えてくれた。


 「明里さんはこわくないんですか?」と、いつか自分もそんな日がくるのだろうか、想像もできない、そう思いながら私は訊ねる。


 「こわいよ、それでもね、この子を産みたいって気持ちのほうが勝つの。お母さんから産まれてきてない人はいない、みんなそうやってお母さんから産まれてきたんだよ、お母さんが産もうと望んでね」


 明里さんがそう言ったとき、お腹にあてている私の手に何かがあたった。


 「あ、今赤ちゃんが蹴った」と明里さんがふわりと微笑む。


 このお腹に本当に赤ちゃんが入っているのだ、私は鳥肌が立つほど感動した。となりを見たら月も同じように感動していて「本当にすごいな」と、月が目を細めて呟いた。


 近い未来、大学を卒業したら私と月は保育士になる。


 それは、こうやってこれから産まれてくる子どもたちが幸せに暮らしていける生活や未来を守る仕事だ。


 もちろん、ちゃんとやれるのだろうかという不安はある。それでも、私はもう、私にだって良いところがあることを知っている。だから不安はあるけど大丈夫だと思える。


 変に強くないといけないと思っていた月は、不器用なところはあるけれど誰に対しても優しくなった。私はそんな彼を弱いとは思わない。今、月は大学に友達がたくさんいる。


 なんでも完璧でないといけないと思っていた私は、自分ひとりでできないことは人に頼んで助けてもらうようになった。すると不思議なことに、今度はお返しで私が助けてあげたり、支え合う、人と人との繋がりができていった。


 高校では、私も月もどこか一匹狼な気質があったが、大学で私たちの周りにはいつも人がいるようになった。


 みんなこうやって、お互いの弱さやできないことを知って、それを支え合って、大切な人と人との繋がりを作っていくんだ。


 弱いこと、完璧じゃないこと、それは悪いことばかりじゃない。誰かのことをわかってあげられる、支え合っていける、きっかけになるのだ。


 だから、私は私のままでいい。


 そして、君は君のままでいい。今、私はそう思える。


 (完)