「はぁはぁ、夢みてえ、すっげえ緊張したけど、すっげえ今嬉しい」
真っ赤な顔をして息を切らせながら月が言った。彼の口から出る吐息が冷気で白くなってふわりと消える。
多分、今私は彼より赤面しているにちがいない。
一瞬で奪われたファーストキスにやっと思考が追いつき、思い返すと恥ずかしくて、だけど、たまらなく嬉しくて…。
ファーストキスの感想は緊張しすぎてわけがわからない、だ。でも月と両思いだったことがとにかく嬉しい。
「やっべえ、なにこれ、冬なのにすっげえあちいんだけど」
「私も…、こんなの初めて」
私たちは真冬の早朝の公園だというのに汗をかくほど身体がぽかぽかして、羽織っていたコートを脱いだ。
そして、なんだこれ、と顔を見合わせて笑った。
「あれ、ふたりとも朝から公園でなにやってんの?」
うしろからの不意打ちの声に、私と月はびくっと大きく肩を動かして反応した。
おそるおそる声のほうを向くと、達也君が驚いた表情で口をあんぐり開けて見ている。
「な、なんで達也が朝っぱらから公園にいんだよ」
早口で声が裏返ってしまい焦っているのがまるわかりの月。
「俺は最近ちょっと太っちまってさ、ダイエットで朝活ランニングしてんだよ。月と委員長はなんの朝活?もしかしてデート?」と、達也君がにやにやしている。
「別に、デ、デートじゃねえしっ」と目を泳がせる月に、「そうなの…?」と半信半疑になってしまい私はぼそっと呟いた。
「そうだよ!デートだよ!俺が朝陽に綺麗な朝焼けをどうしても見せたくて誘ったんだよ。悪いか!文句あんのか!」
顔を赤面させながら月が達也君に捲し立てる。私は月の口からちゃんとデートと言ってもらえて嬉しい。
「ぷー、あの月が委員長の前だとこんな素直になっちまうなんてな、あとで学校でふたりには祝福のカルピス、いや、今俺がダイエット中だからジャスミン茶奢ってやるよ」
「なんでお前も一緒に飲もうとしてんだよ。つーか、なんでジャスミン茶?」
「ジャスミンの花言葉は『愛らしい』なんだぜ。今のお前らにピッタリだろ」と、達也君が満面の笑みでウインクした。
「なんでお前が花言葉なんて知ってんだよ」と、眉間にしわを寄せてつっこむ月。
「そりゃいつか彼女ができたとき言うためだろうがよ!おっと!これ以上は幸せなふたりのお邪魔だな、俺は帰るぜ、あとで学校でな」
「今どき花言葉言って愛をささやくやつなんて聞いたことねえよ、もう充分邪魔だから早く帰れよ」
月が手でしっしとやると達也君は振り返ってにんまりする。
「つーか、お前らさっきちゅーしてたよな」
達也君に見られていた。いっきに私の脈が上がって頬が熱くなる。月も顔を赤面させながら無言で達也君の肩を殴る。
「いってぇ、わかったわかったって、これくらいにしとくから」
そう言いながらけらけらと笑う達也君は「お幸せになー、俺は前から、お前らお似合いだと思ってたー」と手を振って、ランニングの続きをして帰っていった。
達也君の姿が見えなくなったあと、ひとつ気になったことを私は質問した。
「月はなんでここで綺麗な朝日が見れることを知ってたの?」
すると月は少し照れた表情をして答える。
「スケボーをさ、夜中に家を抜け出して公園でやってたんだけど、夢中になっちゃってさ」
「え?朝までやってたってこと?この寒い中?バカじゃん、家にも帰らずにやっぱ不良じゃん」と、私が呆れて言うと「でも、おかげでお前にこの朝日を見せることができた」と、月は晴れた空のようなすがすがしい笑顔をした。