月の言った言葉の意味が理解できなくて、頭の中が真っ白になる。


 「ちょっとごめん、なにが起きてるかわからない」


 どもった口調になってしまったうえ、私の心臓は口から飛び出しそうなほど暴れ回っている。


 「いつも誰かのために心を痛めて、誰かのために泣いて、そんなお前の涙が綺麗じゃないわけないだろ、うちに秘めた想いを優しさで蓋をして、そんな朝陽を俺はいつだって見てきたよ」


 そう言って、月は硝子玉のような綺麗な瞳でまっすぐ私を見つめながら、私の頬につたう涙を優しく指でぬぐう。


 「俺は悠さんみたいになりたいわけじゃないんだよ、俺の変に強くないといけないって価値観に風穴を開けたのも、保育士になりたいと思わせてくれたのも、朝陽を見てきたからなんだ、俺は誰よりも心が優しい朝陽に最初から一目惚れしていた。いつだって朝陽を好きな気持ちが俺を突き動かした。祭りでお前と逸れたときは心配で仕方がなかった、だから必死にお前を探したよ。職場体験の保育園で頑張れたのはお前に良いところを見せたかったからだ。学園祭の手伝いをしたり、みんなの前でお前を守ったときも正義感だけじゃなくて…、朝陽に好きになってもらいたいっていう下心が…、あった。進路希望のとき朝陽は俺の夢を笑わなかったよな、すっげえ嬉しかった」


 月は真っ赤な顔で照れくさそうに笑った。


 「自分のことを見直して、自分の弱いところに気づけるようになったり、良いほうに変わっていってるっていう俺の行動のひとつひとつ、その原動力はいつだって朝陽のことが好きだって気持ちからだったんだ。俺は朝陽に惚れて全部が変わっていったんだよ」


 朝日に照らされた月の顔がいっそう輝いて見える。


 「前に言ったよな、朝陽っていう自分の名前がきらいだって、みんなを照らすようにはなれないからだって、俺はそうは思わない。お前はこの空に輝く朝日のようにみんなを完璧に照らせるわけじゃない。だけど、ずっと俺はお前に照らされてた。お前は俺の太陽なんだよ、朝陽」


 月がそんなふうに私を見てくれていたなんて。月の言葉のひとつひとつが本当に嬉しくて、さっきより激しく嗚咽してしまう。そんな私を、彼はまるで大切なものに触れるように優しく優しく背中をさすり、もう片方の手で頬につたう涙をふいてくれた。


 しばらくして私が少し落ち着いたあと、月は咳払いをしてから覚悟を決めたきりっとした顔をした。


 そして、少しでも前に動いたら唇と唇が触れてしまいそうな距離で「こんなこと誰にも言ったことないし、すっげえ恥ずかしいんだけどさ。これからも俺を照らす、俺の太陽になってくれないか、朝陽。だいすきだよ」と言った。


 「私も月のことだいすきだった」


 もうなにも考えれない、考えれないけど、私はほぼ反射的に即答する。


 輝く朝日が空に昇る中、そのあたたかい光に包まれながら私たちは唇を重ねた。