「――それで、こちらが絢乃さんのお友だちの」

「中川里歩です。初めまして、桐島さん。絢乃がいつもお世話になってます」

 僕は絢乃さんに紹介してもらおうとしたのだが、それより先に里歩さん自らが口を開いた。彼女は控えめな絢乃さんと対照的に、積極的な女性らしい。そしてちょっと世話焼きなところもあるのかな、というのは僕の個人的な感想だが、あながち間違ってもいないようである。

「ああ、いえ。初めまして、里歩さん。桐島貢と申します。よろしく」

 きっと里歩さんも絢乃さんと同い年だが、僕はキッチリと敬語で彼女に挨拶をした。その時点ではまだ、絢乃さんをお世話していたわけではなかったが、その後に実際秘書としてそうなったので、これも間違いではなかった。
 そして僕が敬語だったのは、この日が初対面だった里歩さんのことを信用するに値する人かどうか判断しきれていなかったからでもあった。

「桐島さん、もっと肩の力抜いて。里歩はわたしと同い年だよ」

「そうですよー。ほら、リラーックスして」

 そんな僕の態度に絢乃さんは苦笑いされ、里歩さんと二人して僕の肩やら背中やらをポンポン叩き始めた。身長的に背中を叩いていたのは絢乃さんで、肩を叩いていたのは里歩さんだろう。

「……はあ」

 この時に僕が困った顔をしたのは、肩に感じる衝撃が強くて痛かったからである。彼女の腕力がなぜこんなにも強いのか、その理由を知ったのはこのすぐ後だった。


 ――僕がソファーに腰を落ち着けると、絢乃さんと里歩さんは「テーブルのセッティングがまだ残っているから」とリビングを抜け出した。加奈子さんやお手伝いさんの姿も見えなかったことから、女性陣はみんなキッチンにいるものと思われた。
 ……というわけで、リビングには僕と源一会長の二人きりになった。

「――桐島君、例の件、考えてくれたかな?」

 そう質問された時、僕は覚悟を決めた。あの依頼の返事をするのに、このタイミングが絶好の機会だと思ったのだ。もちろん、僕の中でもうすでに答えは出ていた。

「はい。僕が全身全霊、一生涯をかけて絢乃さんを支えていきます。会長秘書としても、一人の男としても」

「そうかそうか! ありがとう、桐島君」

「ですが、絢乃さんのお気持ちを第一に考えたいと思っておりますので。もし絢乃さんが他の男性を好きになられたら、僕は潔く身を引かせて頂きます。それでもよろしいですか?」

「それはもちろんだ。……では桐島君、絢乃のことを頼む。ずっとあの子の味方でいると約束してくれるか?」