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――オフィスに到着してすぐ、僕は絢乃会長から紙袋にたんまり入ったチョコの保管をお願いされた。ちなみに手作りだった分もあったらしく、それらは別に分けられていた。さすがに手作りチョコまでお裾分けするのは、作って下さった方々に申し訳ないと思われたのだろう。
一人では食べきれないから、秘書室のみんなで分けてもらってもいいと言われたので、僕はそのご厚意に甘えさせて頂くことにした。
そしてその時、僕は彼女からチョコを受け取った。明らかに手作りだと分かる、小ぶりなギフトボックスに入ったそれを受け取り、僕はすっかり舞い上がってしまっていた。
バレンタインデーがこんなに幸せな日だなんて、この時初めて思った。僕にとって、それ以前のバレンタインデーは一体何だったんだろう?
「――では、僕はちょっと給湯室へ行って参ります」
絢乃さんから頂いたチョコをビジネスバッグにそっとしまい、大量のチョコを保管するために給湯室へ向おうとしていると、会長が「わたしもちょっと出てくる」とおっしゃった。社長や常務、小川先輩などにチョコを配りに行くのだそうだ。が、それらのチョコは市販品の大袋チョコを小分けしただけのものだった。
僕が不思議に思って訊ねてみると、「細かいことはいちいち気にしないの」とごまかされたが、これはつまり、僕の分だけ彼女にとって特別だったのだと解釈してもいいのだろうか……?
実は給湯室で、僕にひと騒動起きていた。例の「義理チョコこれでもか攻撃」を受けたのである。両手でも抱えきれないくらいの義理チョコを押し付けられ(秘書室の人の分だけでなく、その人たちが他の部署の友人から預かったものもあったと思われる)、どうしたものかと頭を抱えながら秘書席に戻ると、少し後に戻ってこられた会長がデスクの上に積まれた大量のチョコに顔を曇らせた。
「へー……。桐島さん、人気あるんだね。それだけもらえるなら、わたしからのチョコはいらなかったかもなぁ」
彼女がふてくされたようにそうおっしゃったので顔を上げると、彼女は「ごめん、何でもない」と小さくかぶりを振った。
「会長が下さったチョコって、もしかして……」と訊ねた僕に、「あなたはどっちだと思う?」と質問返しをされた彼女は、僕から見れば少し傷付いているように見えた。初めて好きになった相手(もちろん僕のことだ)が女性にモテるのだと知ったらショックだったろうし、嫉妬だってしたくもなるだろう。