可愛らしいカールのある刈安のミディアムヘアに、黒柿の丸い明るい純粋な瞳を持つ乙女。少々焼けた薄茶の肌が、乙女に明るい印象を与える。
「ねぇ、式まだ始まらないの?ドレスだと動きにくくて退屈だよぉ……」
「我慢してくださいな。もう始まりますよ。ご準備くださいな。」
今日は乙女が一八歳になり、新しい女王になる日。戴冠式で乙女は向日葵色のミニ丈のロングトレーンドレスを身にまとい、向日葵の飾りがあしらわれたティアラが頭に乗せられた時、盛大な拍手が巻き起こった。
「陛下、番が到着いたしました。」
「やっと!わーい!どんな方なのかとっても楽しみだったの!!」
執事もメイドも呆れ顔だ。それもそのはず、乙女は天真爛漫を体現するような女性だからだ。実際、この国の人々は皆陽気でフレンドリーだ。
入場口が開きパレードの音楽とともに向日葵色のローブを着た番が入ってきた。番は車椅子に座っており、乙女の前まで来ると杖を使ってよろよろと立ち上がった。メイドの一人がローブを脱がせる。
「ありがとうございます。お初にお目にかかります、陛下。日和(ひより)と申します。これからよろしくお願いしますね。」
春のひだまりのような温かな声だった。硫黄色のマッシュルームヘアに蘭茶の垂れた優しい瞳を宿している。ゆっくりと車椅子に座る日和を見て、乙女は少しがっかりした。
次の日の朝、乙女は日和の部屋に出向いていた。
「おはよう!日和!よく眠れたかしら!?今日は花畑に行きましょう?!」
日和は体を重々しく起こした。
「おはよう……ございます……陛下……」
乙女は日和を無理やりベッドから出し、着替えさせると食事を持って外に出た。日和の手を引いて走り出す。
「待って……陛下……僕……」
「今から向日葵畑にいくわよ!楽しみにしててね!」
乙女は日和の言葉を全く聞いていない。天真爛漫なのは乙女の長所だが、短所でもあった。
「ま……って…………」
日和の手は乙女の手を離れ、倒れた。
次日和が目を覚ますと、ベッドの横で乙女が泣いていた。
「へ……陛下……」
かすれた声で乙女を読んだ。
「日和……?日和……!良かった……!目を覚ましたのね……!」
乙女は思わず立ち上がり、日和のベッドに涙のシミを作った。
「僕は……大丈夫ですから……泣かないでください……目が腫れてしまいますよ……」
「だって……私のせいで日和が……」
日和はゆっくり起き上がり乙女を抱きしめる。
「言ってないことを知られていたらびっくりです。ある意味いいきっかけじゃないですか。大丈夫です。僕は生きていますから。」
日和の温かい言葉に乙女は先ほど以上に泣き出してしまう。日和は乙女が泣き止むまで背中をさすっていた。
「お医者様が言ってたわ……日和、日光アレルギーなのね……」
日和は少し驚いたが、微笑みながら頷いた。
「はい、正確には日光過敏症というのですが、その理解で大丈夫です。でも勘違いしないでくださいね。全く外に出られないわけではありません。対策すれば大丈夫ですから、今度こと向日葵畑行きましょうね。」
「本当に大丈夫……?」
突っ走りがちな乙女も流石に慎重だった。
「大丈夫です。強いて言うなら僕は生まれつき体が弱くて、あまり走るのが得意ではありません。歩く分には大丈夫ですが、基本的に車椅子を使っています。」
「そうだったわね……ごめんなさい……私の悪いところね……」
乙女は完全に自責の念に駆られている。
「そんなに落ち込まなくても、」
「落ち込むわよ!私、一八歳なって、どんな殿方がいらっしゃるのかずっと楽しみで。仲良くなりたくてずっとソワソワしてたの!その矢先これだもの……」
日和は乙女の頭に犬耳が見えた。
「仲良くなりたいのは僕も同じです。ついこの前出会ったばかりなんです。少しずつ知っていきましょう?そうですね……お名前を聞いてもよろしいですか?」
乙女の顔がぱっと明るくなる。
「私達に名前はないの。だから、日和がつけてくれる?」
「なるほど……」
日和はしばらく真剣に考えた。
「では、日葵(ひなた)さんと呼びますね。日和と日葵ってなんか似てますね。」
「日葵……さん付けしないで呼んで?」
「良いのですか?」
「もちろん!だって番である前に、日和は私の旦那さんだもの。」
日和の頬が少し赤くなる。
「あ、ありがとう……ございます……///」
「敬語もダメ!私と日和は対等なんだから!」
日和は彼女の明るさにますます惹かれていく。
「わかったよ、日葵。これからよろしくね。」
「うん!よろしく、日和!」
二人の仲は至って良好だった。ある、日和の体調がいい日に、二人は向日葵畑に来た。日葵は日差しを遮るために向日葵畑の真ん中にガラスボールを作らせた。
「UVガラスを使ってくれたんだね。わざわざありがとう、日葵。」
「もちろんよ。私だって勉強するんだから!」
日葵はベッドに寝転ぶと隣に日和を呼んだ。
「ここね?近くに街灯がないから星空がとっても綺麗なの。小さい頃は勉強とか作法とか大嫌いでよく逃げ出してはここに来てたわ。夜になってここの星を見るのが本当に好きだったの。」
「君は小さい頃からお転婆だったんだね。でも……僕も星を見るのは好きだよ。今でこそ歩けるくらいには元気だけど、前はもっと体が弱くて一日中寝たきりがザラだったんだ。」
日和は日葵の隣に横になり空を見上げた。
「そんなとき、夜カーテンを開けておいて星を見るのが好きだったんだ。今も好きだよ。寝る前は星を見るのが日課になっちゃって。」
「いいことね!私もそうしようかしら。」
まだ空を見上げても星なんて一つ見えないが、二人をのんびりと見上げ続けた。
「ねぇ、日和。貴方が元気な日はここで過ごしましょう?向日葵も見れるし、夜は星も見れる。最高だと思わない?」
「あはは!君らしいね。でも良い案だ。僕も賛成。今夜もここに泊まろうか……!」
日葵は無邪気に笑って、日和の頬にそっとキスした。
「あ……///君って人は……」
「嫌、だったかしら……///?」
日葵はそっと目を逸らして、耳まで赤くしていた。
「全く。むしろいい気分だよ。」
日和は日葵の顎を優しく掴むと、顔を彼に向かせて唇に優しくキスした。
日和が番として来てから二ヶ月が経つ頃、日和が部屋のベランダで向日葵を育て始めた。プランターで二◯本ほど育てていた。
「ここで育てなくてもたくさんあるじゃない。言ってくれれば採ってきてあげるのに。」
「良いんだよ。僕が自分で育てたいんだ。」
「そっか。ここは日当たりがとっても良いからすぐ花を咲かすわよ!」
「だと、いいな……」
日葵は少し違和感を感じたが、何も聞かないことにした。
その数週間後、日和が日葵に向日葵の花束を渡した。
「これ……もしかして私のために育ててくれたの?!」
「向日葵の女王様に向日葵を渡すなんておかしいかもしれないけど、君に送りたかったんだ。自分で育てた花束を。」
「日和……そんなこと言われたら泣いちゃうわ……!うふふ!何本かドライフラワーにしてもいいかしら?あ、!押し花にもしたいわ!」
「もちろん、構わないよ。」
日和は笑っていたが、どこか悲しそうでもあった。その後、体調を悪くした日和を日葵が部屋に送った。
その日の夜、日葵は部屋で日和がくれた向日葵を見ていた。どの花をドライフラワーや押し花にしようかと考えながら嬉しさに耽(ふけ)ていた。
ふと、向日葵を数えた。向日葵は本数によって花言葉が変わる。例えば一本だと「一目惚れ」、三本だと「愛の告白」など。日和がそこまで知っているとは思わないが、なんとなく興味本位だった。
「一五、一六…一七本……そんな、!」
日葵は部屋から飛び出して日和の部屋に急いだ。
日葵はノックもせずに部屋に入る。そこには医療機器に繋がれた日和の姿があった。
「日和……!」
「あぁ……日葵……ごめ……こんな……姿で……」
「そんなこと良いのよ……!それよりどういうことなの……?向日葵の花束、一七本って……!?」
「本当は……隠して……おく……つもり……だったんだ…………僕……もう……ダメみたい……番の痣も……消えてて……もう……僕……君の……隣には……立てない……」
一七本の向日葵の花言葉は「絶望の愛」。その言葉には「本当は好きで仕方ないけれど、この思いは叶いそうにない」といった意味も含まれている。
「そんな事言わないで……!私と、ずっと一緒にいて……!せめて……開花式まで……お願いよ……!諦めないで……!私は貴方といたいの……!たとえ痣が消えてしまったとしても!私は貴方が好き……!」
番にはその種の痣が生まれつき刻まれている。そして、女王との子を授からずに死に瀕すると痣は消え新しい番が自動的に選ばれる。
日和は日葵の涙を拭った。
「泣かないで……僕は……君の……笑顔が……好きだよ……だから……笑って……?」
それから二人は残りの時間を埋めるように過ごした。日を追うたびに日和の容態は悪化していった。
ある日からは歩けなくなり、ある日から食事が取れなくなる。そのまたある日からついに起き上がることさえできなくなった。
「日葵……」
「ん?どうしたの?」
「……僕のこと……受け……入れて……くれて……ありがとう……君の……番に……なれて……良かった……」
「私こそ……日和に会えて良かった……!ありがとう、日和……大好きよ……」
その日の朝、日葵は今夜が山だと告げられていた。その夜は日葵は日和の手を握っていた。日葵はいつの間にか寝てしまっていた。
清々しい朝日が日葵を起こす。
「……ん……はっ!日和……!」
日葵は日和の顔を覗き込むと本当に穏やかに眠っていた。心の底から幸せそうで、なんの言葉も出なかった。日葵は嗚咽しながら宮廷医のもとに向かった。
「日和が……!日和がぁぁぁぁぁぁ!」
宮廷医は事を察して日和の部屋に向かった。日葵は泣きながらも宮廷医について行った。
宮廷医が日和を診る。日葵はメイドに縋りながら泣き続けている。
「陛下、日和様ですが、」
「分かってるわ……でも……私……」
「まだご存命でございます。」
日葵は目を見開いた。日和に近寄って、日和の胸に耳を当てた。まだドク、ドクと心臓が動いていた。
「日和……!」
「山を越えたようですね。もう大丈夫です。さすが、陛下の旦那様です。」
日葵はまた大泣きしていた。
日和は山を越えて二週間後に目を覚ました。目に見えて快方に向かう日和を日葵は懸命に看病した。
「少しお肉ついてきたね。本当に良かった……」
「心配かけてごめんね……先生が言うにはもう大丈夫だって……」
「本当にそうよ……!あんな花束もらって、もう心臓がいくつあっても足りないわ……!」
「いくら謝っても足らないね……ごめんね……」
日和はゆっくり起き上がると日葵の頭を撫でた。
「もう謝らないで……?私は日和が生きててくれればそれでいいの。……痣はどうなったの……?」
日和は消えかけていた痣を見せた。日和の向日葵の痣は右胸に刻まれていた。
「戻ってきたよ。」
「良かった……これからも一緒にいられるのね……!」
日葵の瞳には涙が浮かんだ。それを拭う日和。二人の間には新たな愛が生まれていた。
一山越えた二人に夏が来た。日和はあれから治療とリハビリを受けて、すっかり体調が戻った。そしてこの日は開花式の前日だった。二人は久しぶりにガラスドームに来ていた。
「君とこの日を迎えられてよかった。」
「それはこっちのセリフよ……!日和が無事で本当に良かった。」
「ありがとう、日葵。……本当に隠しててごめん。君に心配をかけたくなかったんだ。でも、逆効果だったかな。……今はもう枯れちゃった?」
「そんなわけないじゃない……!」
日葵は自慢げに話した。日和から貰った向日葵は日葵の部屋の窓際に飾ってある。
「一一本はドライフラワーにしたの。枯れちゃうのはやっぱり悲しいから。おやつにしようと思って種も採ったり、花びらを押し花にしたり。あ、!向日葵の種で油も取ったのよ。」
「一一本?随分中途半端な気がするけれど……」
「分かってないわねぇ、全く……向日葵って本数によって変わるのよ、一一本の花言葉は……」
日葵は呆れた顔をすると、日和に耳打ちした。
「『最愛』……♡」
「っ……///君って人は本当に……あんまり煽ると襲うよ?僕もう元気なんだから。」
「きゃぁ!怖い!あはは!」
「冷やかさないでくれよ。こっちは頑張ってるんだからさ。」
二人はベッドに寝転びながら星空を見上げた。
「そろそろカーテン閉めようか。」
「えぇ……なんで?」
「なんでって…………君のこと食べなくちゃいけないから。」
日和の優しい瞳に獣のような欲望が浮かぶ。その視線は日葵を穿った。ボタン一つでカーテンを閉める。
「明日開花式なのに何もしないわけないじゃないか。」
「あ……///あぁ……///」
日和は寝転ぶ日葵に覆いかぶさる。日葵は怯えているようで満更でもない様子だ。
「逃さないからね?」
「は、はい……///」
日和が日葵の顎を掴んでそっと上を向かせると優しく口付けを交わす。奇跡の夜は二人だけの熱いものになった。
翌朝、あの日と同じようにドレスアップした日葵は控え室で不安がってた。
「私上手くできるかしら……」
「大丈夫だよ。そういえば、戴冠式では随分お転婆したみたいだね。さっきメイド長さんから聞いたよ。」
「いやぁ!そんなこと知らなくていいのよ!恥ずかしいわ……///」
「君らしくていいじゃないか。僕は君のことならなんでも知りたいけれど。」
日和は少し逞しくなった体で日葵を抱きしめる。というのも、健康体になった日和は今体力作りも兼ねて日葵の護衛ができるように訓練中だった。
「日葵、リラックスして。君なら大丈夫。ありがとう、僕の奥さんになってくれて。好きだよ。」
「日和だって緊張してるじゃないの。でも……日和の体温安心するわ……ありがとう、貴方がいてくれるから私は大丈夫。生きてくれてありがとう。」
日葵がメイドに呼ばれてまもなく開花式が始まった。
その夏、各地で満開に向日葵畑が見られたという。
「ねぇ、式まだ始まらないの?ドレスだと動きにくくて退屈だよぉ……」
「我慢してくださいな。もう始まりますよ。ご準備くださいな。」
今日は乙女が一八歳になり、新しい女王になる日。戴冠式で乙女は向日葵色のミニ丈のロングトレーンドレスを身にまとい、向日葵の飾りがあしらわれたティアラが頭に乗せられた時、盛大な拍手が巻き起こった。
「陛下、番が到着いたしました。」
「やっと!わーい!どんな方なのかとっても楽しみだったの!!」
執事もメイドも呆れ顔だ。それもそのはず、乙女は天真爛漫を体現するような女性だからだ。実際、この国の人々は皆陽気でフレンドリーだ。
入場口が開きパレードの音楽とともに向日葵色のローブを着た番が入ってきた。番は車椅子に座っており、乙女の前まで来ると杖を使ってよろよろと立ち上がった。メイドの一人がローブを脱がせる。
「ありがとうございます。お初にお目にかかります、陛下。日和(ひより)と申します。これからよろしくお願いしますね。」
春のひだまりのような温かな声だった。硫黄色のマッシュルームヘアに蘭茶の垂れた優しい瞳を宿している。ゆっくりと車椅子に座る日和を見て、乙女は少しがっかりした。
次の日の朝、乙女は日和の部屋に出向いていた。
「おはよう!日和!よく眠れたかしら!?今日は花畑に行きましょう?!」
日和は体を重々しく起こした。
「おはよう……ございます……陛下……」
乙女は日和を無理やりベッドから出し、着替えさせると食事を持って外に出た。日和の手を引いて走り出す。
「待って……陛下……僕……」
「今から向日葵畑にいくわよ!楽しみにしててね!」
乙女は日和の言葉を全く聞いていない。天真爛漫なのは乙女の長所だが、短所でもあった。
「ま……って…………」
日和の手は乙女の手を離れ、倒れた。
次日和が目を覚ますと、ベッドの横で乙女が泣いていた。
「へ……陛下……」
かすれた声で乙女を読んだ。
「日和……?日和……!良かった……!目を覚ましたのね……!」
乙女は思わず立ち上がり、日和のベッドに涙のシミを作った。
「僕は……大丈夫ですから……泣かないでください……目が腫れてしまいますよ……」
「だって……私のせいで日和が……」
日和はゆっくり起き上がり乙女を抱きしめる。
「言ってないことを知られていたらびっくりです。ある意味いいきっかけじゃないですか。大丈夫です。僕は生きていますから。」
日和の温かい言葉に乙女は先ほど以上に泣き出してしまう。日和は乙女が泣き止むまで背中をさすっていた。
「お医者様が言ってたわ……日和、日光アレルギーなのね……」
日和は少し驚いたが、微笑みながら頷いた。
「はい、正確には日光過敏症というのですが、その理解で大丈夫です。でも勘違いしないでくださいね。全く外に出られないわけではありません。対策すれば大丈夫ですから、今度こと向日葵畑行きましょうね。」
「本当に大丈夫……?」
突っ走りがちな乙女も流石に慎重だった。
「大丈夫です。強いて言うなら僕は生まれつき体が弱くて、あまり走るのが得意ではありません。歩く分には大丈夫ですが、基本的に車椅子を使っています。」
「そうだったわね……ごめんなさい……私の悪いところね……」
乙女は完全に自責の念に駆られている。
「そんなに落ち込まなくても、」
「落ち込むわよ!私、一八歳なって、どんな殿方がいらっしゃるのかずっと楽しみで。仲良くなりたくてずっとソワソワしてたの!その矢先これだもの……」
日和は乙女の頭に犬耳が見えた。
「仲良くなりたいのは僕も同じです。ついこの前出会ったばかりなんです。少しずつ知っていきましょう?そうですね……お名前を聞いてもよろしいですか?」
乙女の顔がぱっと明るくなる。
「私達に名前はないの。だから、日和がつけてくれる?」
「なるほど……」
日和はしばらく真剣に考えた。
「では、日葵(ひなた)さんと呼びますね。日和と日葵ってなんか似てますね。」
「日葵……さん付けしないで呼んで?」
「良いのですか?」
「もちろん!だって番である前に、日和は私の旦那さんだもの。」
日和の頬が少し赤くなる。
「あ、ありがとう……ございます……///」
「敬語もダメ!私と日和は対等なんだから!」
日和は彼女の明るさにますます惹かれていく。
「わかったよ、日葵。これからよろしくね。」
「うん!よろしく、日和!」
二人の仲は至って良好だった。ある、日和の体調がいい日に、二人は向日葵畑に来た。日葵は日差しを遮るために向日葵畑の真ん中にガラスボールを作らせた。
「UVガラスを使ってくれたんだね。わざわざありがとう、日葵。」
「もちろんよ。私だって勉強するんだから!」
日葵はベッドに寝転ぶと隣に日和を呼んだ。
「ここね?近くに街灯がないから星空がとっても綺麗なの。小さい頃は勉強とか作法とか大嫌いでよく逃げ出してはここに来てたわ。夜になってここの星を見るのが本当に好きだったの。」
「君は小さい頃からお転婆だったんだね。でも……僕も星を見るのは好きだよ。今でこそ歩けるくらいには元気だけど、前はもっと体が弱くて一日中寝たきりがザラだったんだ。」
日和は日葵の隣に横になり空を見上げた。
「そんなとき、夜カーテンを開けておいて星を見るのが好きだったんだ。今も好きだよ。寝る前は星を見るのが日課になっちゃって。」
「いいことね!私もそうしようかしら。」
まだ空を見上げても星なんて一つ見えないが、二人をのんびりと見上げ続けた。
「ねぇ、日和。貴方が元気な日はここで過ごしましょう?向日葵も見れるし、夜は星も見れる。最高だと思わない?」
「あはは!君らしいね。でも良い案だ。僕も賛成。今夜もここに泊まろうか……!」
日葵は無邪気に笑って、日和の頬にそっとキスした。
「あ……///君って人は……」
「嫌、だったかしら……///?」
日葵はそっと目を逸らして、耳まで赤くしていた。
「全く。むしろいい気分だよ。」
日和は日葵の顎を優しく掴むと、顔を彼に向かせて唇に優しくキスした。
日和が番として来てから二ヶ月が経つ頃、日和が部屋のベランダで向日葵を育て始めた。プランターで二◯本ほど育てていた。
「ここで育てなくてもたくさんあるじゃない。言ってくれれば採ってきてあげるのに。」
「良いんだよ。僕が自分で育てたいんだ。」
「そっか。ここは日当たりがとっても良いからすぐ花を咲かすわよ!」
「だと、いいな……」
日葵は少し違和感を感じたが、何も聞かないことにした。
その数週間後、日和が日葵に向日葵の花束を渡した。
「これ……もしかして私のために育ててくれたの?!」
「向日葵の女王様に向日葵を渡すなんておかしいかもしれないけど、君に送りたかったんだ。自分で育てた花束を。」
「日和……そんなこと言われたら泣いちゃうわ……!うふふ!何本かドライフラワーにしてもいいかしら?あ、!押し花にもしたいわ!」
「もちろん、構わないよ。」
日和は笑っていたが、どこか悲しそうでもあった。その後、体調を悪くした日和を日葵が部屋に送った。
その日の夜、日葵は部屋で日和がくれた向日葵を見ていた。どの花をドライフラワーや押し花にしようかと考えながら嬉しさに耽(ふけ)ていた。
ふと、向日葵を数えた。向日葵は本数によって花言葉が変わる。例えば一本だと「一目惚れ」、三本だと「愛の告白」など。日和がそこまで知っているとは思わないが、なんとなく興味本位だった。
「一五、一六…一七本……そんな、!」
日葵は部屋から飛び出して日和の部屋に急いだ。
日葵はノックもせずに部屋に入る。そこには医療機器に繋がれた日和の姿があった。
「日和……!」
「あぁ……日葵……ごめ……こんな……姿で……」
「そんなこと良いのよ……!それよりどういうことなの……?向日葵の花束、一七本って……!?」
「本当は……隠して……おく……つもり……だったんだ…………僕……もう……ダメみたい……番の痣も……消えてて……もう……僕……君の……隣には……立てない……」
一七本の向日葵の花言葉は「絶望の愛」。その言葉には「本当は好きで仕方ないけれど、この思いは叶いそうにない」といった意味も含まれている。
「そんな事言わないで……!私と、ずっと一緒にいて……!せめて……開花式まで……お願いよ……!諦めないで……!私は貴方といたいの……!たとえ痣が消えてしまったとしても!私は貴方が好き……!」
番にはその種の痣が生まれつき刻まれている。そして、女王との子を授からずに死に瀕すると痣は消え新しい番が自動的に選ばれる。
日和は日葵の涙を拭った。
「泣かないで……僕は……君の……笑顔が……好きだよ……だから……笑って……?」
それから二人は残りの時間を埋めるように過ごした。日を追うたびに日和の容態は悪化していった。
ある日からは歩けなくなり、ある日から食事が取れなくなる。そのまたある日からついに起き上がることさえできなくなった。
「日葵……」
「ん?どうしたの?」
「……僕のこと……受け……入れて……くれて……ありがとう……君の……番に……なれて……良かった……」
「私こそ……日和に会えて良かった……!ありがとう、日和……大好きよ……」
その日の朝、日葵は今夜が山だと告げられていた。その夜は日葵は日和の手を握っていた。日葵はいつの間にか寝てしまっていた。
清々しい朝日が日葵を起こす。
「……ん……はっ!日和……!」
日葵は日和の顔を覗き込むと本当に穏やかに眠っていた。心の底から幸せそうで、なんの言葉も出なかった。日葵は嗚咽しながら宮廷医のもとに向かった。
「日和が……!日和がぁぁぁぁぁぁ!」
宮廷医は事を察して日和の部屋に向かった。日葵は泣きながらも宮廷医について行った。
宮廷医が日和を診る。日葵はメイドに縋りながら泣き続けている。
「陛下、日和様ですが、」
「分かってるわ……でも……私……」
「まだご存命でございます。」
日葵は目を見開いた。日和に近寄って、日和の胸に耳を当てた。まだドク、ドクと心臓が動いていた。
「日和……!」
「山を越えたようですね。もう大丈夫です。さすが、陛下の旦那様です。」
日葵はまた大泣きしていた。
日和は山を越えて二週間後に目を覚ました。目に見えて快方に向かう日和を日葵は懸命に看病した。
「少しお肉ついてきたね。本当に良かった……」
「心配かけてごめんね……先生が言うにはもう大丈夫だって……」
「本当にそうよ……!あんな花束もらって、もう心臓がいくつあっても足りないわ……!」
「いくら謝っても足らないね……ごめんね……」
日和はゆっくり起き上がると日葵の頭を撫でた。
「もう謝らないで……?私は日和が生きててくれればそれでいいの。……痣はどうなったの……?」
日和は消えかけていた痣を見せた。日和の向日葵の痣は右胸に刻まれていた。
「戻ってきたよ。」
「良かった……これからも一緒にいられるのね……!」
日葵の瞳には涙が浮かんだ。それを拭う日和。二人の間には新たな愛が生まれていた。
一山越えた二人に夏が来た。日和はあれから治療とリハビリを受けて、すっかり体調が戻った。そしてこの日は開花式の前日だった。二人は久しぶりにガラスドームに来ていた。
「君とこの日を迎えられてよかった。」
「それはこっちのセリフよ……!日和が無事で本当に良かった。」
「ありがとう、日葵。……本当に隠しててごめん。君に心配をかけたくなかったんだ。でも、逆効果だったかな。……今はもう枯れちゃった?」
「そんなわけないじゃない……!」
日葵は自慢げに話した。日和から貰った向日葵は日葵の部屋の窓際に飾ってある。
「一一本はドライフラワーにしたの。枯れちゃうのはやっぱり悲しいから。おやつにしようと思って種も採ったり、花びらを押し花にしたり。あ、!向日葵の種で油も取ったのよ。」
「一一本?随分中途半端な気がするけれど……」
「分かってないわねぇ、全く……向日葵って本数によって変わるのよ、一一本の花言葉は……」
日葵は呆れた顔をすると、日和に耳打ちした。
「『最愛』……♡」
「っ……///君って人は本当に……あんまり煽ると襲うよ?僕もう元気なんだから。」
「きゃぁ!怖い!あはは!」
「冷やかさないでくれよ。こっちは頑張ってるんだからさ。」
二人はベッドに寝転びながら星空を見上げた。
「そろそろカーテン閉めようか。」
「えぇ……なんで?」
「なんでって…………君のこと食べなくちゃいけないから。」
日和の優しい瞳に獣のような欲望が浮かぶ。その視線は日葵を穿った。ボタン一つでカーテンを閉める。
「明日開花式なのに何もしないわけないじゃないか。」
「あ……///あぁ……///」
日和は寝転ぶ日葵に覆いかぶさる。日葵は怯えているようで満更でもない様子だ。
「逃さないからね?」
「は、はい……///」
日和が日葵の顎を掴んでそっと上を向かせると優しく口付けを交わす。奇跡の夜は二人だけの熱いものになった。
翌朝、あの日と同じようにドレスアップした日葵は控え室で不安がってた。
「私上手くできるかしら……」
「大丈夫だよ。そういえば、戴冠式では随分お転婆したみたいだね。さっきメイド長さんから聞いたよ。」
「いやぁ!そんなこと知らなくていいのよ!恥ずかしいわ……///」
「君らしくていいじゃないか。僕は君のことならなんでも知りたいけれど。」
日和は少し逞しくなった体で日葵を抱きしめる。というのも、健康体になった日和は今体力作りも兼ねて日葵の護衛ができるように訓練中だった。
「日葵、リラックスして。君なら大丈夫。ありがとう、僕の奥さんになってくれて。好きだよ。」
「日和だって緊張してるじゃないの。でも……日和の体温安心するわ……ありがとう、貴方がいてくれるから私は大丈夫。生きてくれてありがとう。」
日葵がメイドに呼ばれてまもなく開花式が始まった。
その夏、各地で満開に向日葵畑が見られたという。



