わたしたちが浜辺を歩いていると、すぐ目的の海カフェを見つけることができた。


 そこは海沿いの小さな丘の上にある、おしゃれなログハウス風の建物で、オープンテラスからは周りの海が一望できる。


 さっそく、わたしたちは店内に入った。


 レジで注文するために、列のうしろに並んでいると、わたしはとなりの悠が口をタコのようにして変顔していることに気づいた。


 彼の変顔の先には、わたしたちの前に並ぶ女性の抱っこ紐から、赤ちゃんが顔を覗かせている。


 じーっと、こちらを見つめる赤ちゃんに「うーん。なかなか笑わないなぁ。こりゃ手強いぞ」と、あれやこれや顔を変えてなんとか笑わそうとする悠。


 「もー、何やってんのよ」


 「わかるだろ。あの赤ちゃんをなんとか笑わせたいんだよ」


 「それは悠がまだまだ甘いわ」


 「えー、あんな手強いんだぜ?じゃあ晴がやってみてよ」


 「いいよ」


 わたしは赤ちゃんと自分の目がしっかり合ったのを確認すると、両手で自分の顔を隠し「いな〜いいな〜い、ばぁ〜」と、もう一度、顔を出して微笑みかけた。


 すると赤ちゃんはにっこり笑う。


 その笑顔が可愛くて「赤ちゃんの笑った顔って本当に可愛い。あ〜天使だね」と、わたしが話しかけると「えーっ、なんで俺だと笑ってくれなかったのに晴だと笑うんだよー。納得いかねー」と悠が悔しがった。


 「あのね、あの赤ちゃんくらいの発達段階だと、見えなくなったものの存在自体が消えてしまったと認識してるの。いないいないばあは消えてしまった顔がまた突然あらわれるから、赤ちゃんにとっては面白い遊びなんだよ。それにほとんどの赤ちゃんは、ママや保育園の先生がいないいないばあ遊びをしているから、顔が隠れてもまた出てくることを知ってるの。だから今の場合、赤ちゃんはやっぱり顔がまた出てきたって思って笑ったんだと思うよ」と、わたしは種明かしをした。


 「うわー、すげえ!勉強なったよ。さすが晴」


 「まあ、悠より長く保育士やってるからね」


 「でも、それズルじゃん。変顔選手権で笑わせなきゃー」


 「えー、わたしもタコみたいな顔するの?絶対いやー」


 そんなたわいもないやりとりをして、ふたりで楽しんだ。


 悠はタコライス、わたしはサラダプレートのランチセットを頼み、オープンテラスで美味しいランチと海の景色を満喫した。