「真白の姿を見たら気が変わるって兄貴が言ってたけど、本当だった。恥ずかしいから嫌だって、俺の感情を優先してダンスパーティーに参加しなかったら、こんなに可愛い真白を見ることもできなかった。間違ってたのは俺のほう。真白がそんなに踊りたいと思ってたなんて思わなかった。ごめん」
「え、ううん、そんなこと……でも、漣里くんは本当は嫌なんでしょう? 不機嫌そうだったし……」
「それは……」
 漣里くんは言い淀んだ。

「タキシードなんて着るの初めてだし、この髪型だって、なんか……照れくさいというか……」
「え」
 不機嫌なのではなく、単純に気恥ずかしかっただけなの?

「大丈夫だよ、さっきも言ったけど、すっごく格好良いから。見とれちゃった、惚れ直したよ」
「……そう? なら良かった」
 私の言葉に安心したのか、漣里くんは表情を和らげた。

 嬉しい。
 私、漣里くんと踊れるみたいだ。
 花火大会のときは髪もぼさぼさで、転んで、泣いて、もう最悪の状態だったけど。

 いまはちゃんと、綺麗に身なりを整えている。
 一生懸命選んだドレスを着て、漣里くんがプレゼントしてくれたヘアピンを髪に差した、最高の状態だ。

「それじゃあ……。言っとくけど、いまだけは恥ずかしいっていう感情を封印するから」
「? うん」
 なんだかよくわからないまま、頷く。

 漣里くんは歩み寄り、すっ――と。
 私の前で、片膝をついた。

 そして、片手を差し出し、まっすぐに私を見つめる。

「一緒に踊ってくれますか?」

 真剣な眼差しに、心臓が大きく跳ねた。
 予想外の行動に唖然としていると、漣里くんが笑った。

 私を見つめて、優しく、笑った。
 胸の中で何かが弾けて、たちまちそれは身体いっぱいに広がって、隅々まで満ちていって――ああ、これが幸せなんだなって、実感した。

 目頭が熱くなる。唇が震える。
 あまりにも幸せで、涙の衝動が堪えきれない。

「……はい。喜んで」
 手の甲で涙を拭い、漣里くんの手に自分の手を乗せる。
 漣里くんが安心したように笑い、私の手を握ったまま立ち上がった。

 ふと、この場にいない人のことを思う。
 今頃、葵先輩はみーこと屋上で話しているんだろうか。

 そうであったらいい。
 いつだって最高の味方でいてくれた二人が、穏やかに笑い合ってくれていればいいと、切に願う。

「行こう」
「うん」
 指を絡め合い、歩き出す。

 ――さあ、行こう。

 ありふれた高校の体育館で行われる、賑やかでおかしなダンスパーティーへ。

 ううん、それが終わっても、どこへだって――そう、繋いだ手を離さずに。
 私の手はあなたのために。

 ――あなたに愛を伝えるために。

《END.》