楽しいイベントはあっという間に過ぎるもの。
 一日目の文化祭が終わり、二日目の後夜祭――午後六時。

『後夜祭の時間になったら、ドレスに着替えて教室で待ってて。漣里を迎えに行かせるから』
 葵先輩からそんなメッセージを受け取った私は暗い自分の教室に一人、ぽつんと立っていた。

 この時間帯、生徒は体育館か講堂にいなければならない。
 教室にいるのがばれたらまずいため、電気はつけられなかった。

 後片付けの終わった無人の教室は、いつも通り綺麗に整えられている。
 教室に落ちる暗闇と静寂は、夕方まで行われていた文化祭がまるで夢だったかのように錯覚させた。

「…………」
 更衣室で着替えを済ませた私は、ピンクのパステルカラーのドレスを着ている。

 ふんわりしたフレアスカートに、腰にはリボン。
 頭には漣里くんがくれたヘアピン。

 足には踵のほとんどないパンプスを履き、顔には薄く化粧して、色つきのリップを唇に塗っていた。

 準備は万端。
 ……でも、肝心のお相手が来てくれるのかどうか……
 葵先輩が約束してくれたんだから大丈夫だろう、という気持ちと、あの照れ屋の漣里くんが本当にその気になってくれるのだろうか、という気持ちがせめぎ合っている。

 はあ、とため息をついたとき。
 廊下から足音が聞こえた。

 見回りの先生か、それとも漣里くんか。
 前者の場合は隠れなければならない。

 私は極力足音を殺して歩き、扉からそっとその姿を確認した。
 非常灯がぼんやりと灯る廊下を歩いてくるシルエットは――漣里くんだった。

 私はその姿を見て、瞠目した。
 漣里くんはタキシードに身を包んでいた。

 髪も掻き上げるようにして、ばっちり決めている。
 でも、漣里くんは不機嫌そうだった。

 ……あ。やっぱり、乗り気じゃないっぽい。

 来てくれたのはとても嬉しい。
 初めて見た彼のタキシード姿は、ますます彼を凛々しく見せた。

 でも、心が伴ってなければ意味がない。
 どんなに漣里くんが格好良く決めてくれたって、姿と心がちぐはぐなんじゃ、台無しだ。

 フレアスカートを揺らして廊下に出ると、漣里くんは目を軽く見開いた。

「……可愛い」
 思わず呟いた、という感じだった。
 その言葉はとても嬉しいけれど――漣里くんが嫌がっているとわかってしまったから、暗がりの中、私は曖昧に笑った。

「ありがとう。漣里くんも凄く格好良いよ。……それ、葵先輩が?」
「ああ」
 たちまち、漣里くんが面白くなさそうな顔つきになる。

「皆と講堂に移動しようとしたとき、後ろから腕を掴まれて。着替えさせられたり髪を整えられたりした後、真白が待ってるから行ってこいって送り出された」
 漣里くんは普段とは違う髪型が気になるのか、髪に手を置いた。

「……そっか。ごめんね」
 目を伏せる。
「嫌だってわかってたのに、私が葵先輩に頼んじゃったの」
「いや」
 漣里くんはかぶりを振った。