十月に入って衣替えも終わり、いよいよ迎えた文化祭――通称、時海祭。
土曜日の今日は夕方5時まで一般開放されているため、生徒の保護者や他校の生徒など、たくさんの人が来ている。
お祭り騒ぎの中、私は華やかに飾り付けられた教室の一角で、カジノディーラーとして立っていた。
黒と白のツートンカラーでまとめられたメイド服に、リボンのついたハイソックス。
頭にはうさぎ耳付きのカチューシャ。
過剰にひらひらしたフリルが太ももをくすぐって、どうにも落ち着かない。
クラスのカジノは盛況だった。
トランプ、UNO、麻雀の三種類のうち、やはり人気があるのは一般的に認知度が高いトランプ。
麻雀班の人たちはお客さんが誰もいないのをいいことに、内輪で遊んでいる。
その中には小金井くんもいて、クラスメイトと一緒に笑っている彼を見ると微笑ましい気持ちになった。
ひっきりなしに訪れていたお客さんも、お昼時になるとさすがに少なくなった。
この時間帯はカジノで遊ぶよりも腹ごしらえが優先されるのだろう。
教室に残っているのは、UNOを囲んでいる三人だけ。
「ふえー、つっかれたー」
周囲に誰もいないのを良いことに、私は小声で呟いた。
教室の時計は12時過ぎを指している。
12時で五十鈴と交代するはずだったんだけどな?
楽しくて時間を忘れてるのかも、と思ったそのとき、声がかかった。
「お待たせー、遅刻してごめん。交代しよっか、みもっち」
他のクラスに遊びに行っていた五十鈴が歩いてきた。
「あ、うん。じゃあ更衣室に……」
廊下から黄色い悲鳴が聞こえた。
お客さんも、クラスメイトも、何事かという顔で教室の扉を見る。
大歓声を受けるような人物といえば――やっぱり。
「こんにちは」
ひょこっと姿を現したのは、葵先輩だった。
葵先輩だけじゃなく、漣里くんもいた。
葵先輩は何故か気まずそうな顔をしている漣里くんの腕を掴み、教室の中へ入ってきた。
「はい、行ってらっしゃい」
五十鈴が私の背中を叩き、そちらへと押し出した。
この場にみーこがいないのが残念だった。
葵先輩の登場を誰より喜んだだろうに、すれ違いのタイミングで彼女は出かけていた。
「こんにちは。遊びに来てくれたんですか?」
彼らの前に行って笑った後、首を傾げる。
「漣里くんはどうしたの?」
「ふふ。教室の前でぼーっと立ってたから連れてきた。深森さんがあんまり可愛い格好してるから、色々と噛み締めてたんじゃない?」
「えっ」
「……うん。可愛い」
漣里くんは真顔で頷いた。
「そ、そうかな。ありがとう」
誰よりも感想を聞きたかった人から褒め言葉を受け取って、私は照れ笑い。
「文化祭が終わるまでずっとその格好してるのか?」
「ううん、いまから交代するから、制服に戻るよ」
「そっか……」
心なしか、漣里くんは残念そうだった。
「ここってカジノなんだよね? どういうルールなの?」
「あ、まずは入り口でお金を払ってもらって」
と、教室の前方にある受付を指す。
土曜日の今日は夕方5時まで一般開放されているため、生徒の保護者や他校の生徒など、たくさんの人が来ている。
お祭り騒ぎの中、私は華やかに飾り付けられた教室の一角で、カジノディーラーとして立っていた。
黒と白のツートンカラーでまとめられたメイド服に、リボンのついたハイソックス。
頭にはうさぎ耳付きのカチューシャ。
過剰にひらひらしたフリルが太ももをくすぐって、どうにも落ち着かない。
クラスのカジノは盛況だった。
トランプ、UNO、麻雀の三種類のうち、やはり人気があるのは一般的に認知度が高いトランプ。
麻雀班の人たちはお客さんが誰もいないのをいいことに、内輪で遊んでいる。
その中には小金井くんもいて、クラスメイトと一緒に笑っている彼を見ると微笑ましい気持ちになった。
ひっきりなしに訪れていたお客さんも、お昼時になるとさすがに少なくなった。
この時間帯はカジノで遊ぶよりも腹ごしらえが優先されるのだろう。
教室に残っているのは、UNOを囲んでいる三人だけ。
「ふえー、つっかれたー」
周囲に誰もいないのを良いことに、私は小声で呟いた。
教室の時計は12時過ぎを指している。
12時で五十鈴と交代するはずだったんだけどな?
楽しくて時間を忘れてるのかも、と思ったそのとき、声がかかった。
「お待たせー、遅刻してごめん。交代しよっか、みもっち」
他のクラスに遊びに行っていた五十鈴が歩いてきた。
「あ、うん。じゃあ更衣室に……」
廊下から黄色い悲鳴が聞こえた。
お客さんも、クラスメイトも、何事かという顔で教室の扉を見る。
大歓声を受けるような人物といえば――やっぱり。
「こんにちは」
ひょこっと姿を現したのは、葵先輩だった。
葵先輩だけじゃなく、漣里くんもいた。
葵先輩は何故か気まずそうな顔をしている漣里くんの腕を掴み、教室の中へ入ってきた。
「はい、行ってらっしゃい」
五十鈴が私の背中を叩き、そちらへと押し出した。
この場にみーこがいないのが残念だった。
葵先輩の登場を誰より喜んだだろうに、すれ違いのタイミングで彼女は出かけていた。
「こんにちは。遊びに来てくれたんですか?」
彼らの前に行って笑った後、首を傾げる。
「漣里くんはどうしたの?」
「ふふ。教室の前でぼーっと立ってたから連れてきた。深森さんがあんまり可愛い格好してるから、色々と噛み締めてたんじゃない?」
「えっ」
「……うん。可愛い」
漣里くんは真顔で頷いた。
「そ、そうかな。ありがとう」
誰よりも感想を聞きたかった人から褒め言葉を受け取って、私は照れ笑い。
「文化祭が終わるまでずっとその格好してるのか?」
「ううん、いまから交代するから、制服に戻るよ」
「そっか……」
心なしか、漣里くんは残念そうだった。
「ここってカジノなんだよね? どういうルールなの?」
「あ、まずは入り口でお金を払ってもらって」
と、教室の前方にある受付を指す。