「他人の評価なんて気にすることない。口数が少なくても、漣里くんが本当は凄く優しい人だって、私は知ってるもの。そんな漣里くんに、私は助けてもらったんだもの。口先だけの人より、実際に行動することができて、人を大切にできる漣里くんのほうが、よっぽど素敵だと思う」
 あ、あった。
 ようやく目的のページを探し当てた私は、顔を上げた。

「ほら、この人よりも漣里くんのほうが格好良……」
 そこで、私の目は点になった。

 あまりの衝撃に、言葉も止まる。
 ……どうしたことだろう。

 漣里くんの顔が、真っ赤だ。
 耳まで赤くなってる。

 しかも彼、よっぽど恥ずかしいのか、半分だけ顔をそらして、右腕で顔を隠してる。

 右手の甲が左の頬についているような状態だ。
 激しく動揺したように瞳が揺れている。

 え……え?
 何事?

 無愛想でクールな普段の彼からは、想像もつかない状態だよ?

「れ、漣里くん?」
 あ、そういえば、いま私、漣里くんのこと褒めたよね?

 葵先輩に言われたからじゃなくて、ただ会話の流れで、自然に口から出た言葉だったけど――紛れもなくそれは私の本心だ。

「そん……なこと、ない、し……」
 漣里くんは私から顔を背けたまま、声を絞り出すようにして言った。

 え? え? え?
 まだ理解が追いつかず、私の頭の中に無数のはてなマークが踊る。

 ……ひょっとして、漣里くんって。
 ものすごく照れ屋さん?

 私が漣里くんを優しいと言ったとき、否定して廊下に出て行ったのも、照れ隠しだったのかな?

 あの後は、廊下でこんなふうに、真っ赤になってたのかな?

「…………」
 確かめてみよう。
 そんないたずら心が芽生えた私は、身体を漣里くんに近づけた。

 軽く前のめりになり、両手をメガホンの形にして、小声でささやく。

「……漣里くんって素敵」
 ぼっ!
 そんな擬音がつきそうなほど、漣里くんの顔が赤くなった。

「違うし。うるさい」
 漣里くんはそっぽ向いた。

 ええええええええええ!!
 凄い! 何この人!

 可愛い!!
 心臓がきゅーんと縮まった。

 漣里くんがこんな一面を持っていたなんて。
『面白いものが見られる』って、こういうことだったんだ。

「黙らなかったらどうなるの?」

 彼の反応が知りたくて――もっともっと知らない一面が見たくて、私はつい聞いてみた。

「帰る」
 漣里くんは立ち上がった。

「わあ、嘘です嘘ですごめんなさいっ! もう言いません! 約束するからゆっくりしていって!!」
 私は慌てて立ち上がり、彼の腕を掴んだ。

 私が必死だったからだろう、仕方なくといった様子で漣里くんが座り直した。
 ほっとして私も座る。

 ……あんまり調子に乗ったら拗ねちゃうみたいだ。
 何事もやりすぎは良くないね、うん。

 漣里くんは仏頂面でジュースを飲み始めた。
 まだ少し顔を赤くしたまま。
 でもそれを指摘したら今度こそ帰ってしまうと思ったから、口には出さなかった。

 ……これは、評価を改めなければいけない。
 私は微笑みながら思った。
 彼は無愛想なようでいて――凄く可愛い。