登校してきた一般の生徒たちは、怪しすぎる集団には関わりたくないとばかりに、そそくさと傍を通り過ぎ、校門の中へと吸い込まれていく。
 しかし一方で、足を止めて彼らを遠巻きに眺め、ひそひそと囁き合っている生徒もいた。

 おかげで鉢巻軍団を含め、二十人を優に超える生徒が校門付近に集まっている。

「なんだ、あれ」
 漣里くんが無感動に呟く。

「お、やっと来たわね成瀬くん、真白」
 私たちを見つけたみーこが腕組みを解き、手を振ってきた。
「おお、来たか、成瀬弟。待ちわびたぞ」
 元サッカー部部長が両手を広げ、きらりと白い歯を輝かせた。

「……逃げていいかな」
「まあまあ、行ってみようよ」
 私は逃げ腰の漣里くんの背中を押し、鉢巻軍団に近づいた。

「おはよう、みーこ……これは何の騒ぎなの?」
「見てわからない? 私たちは葵先輩の依頼を受けて結成された『成瀬漣里護衛隊』よ!」

 みーこは他の鉢巻軍団たちと一緒に、どこかの戦隊もののようなポーズをびしっと決めてみせた。

「……余計なことを……」
 頭痛を覚えたらしく、漣里くんは額を押さえた。

「何を言う、弟を案ずる兄の深い愛情だぞ。遠慮なく受け取れ漣里」
「呼び捨てか」
 元サッカー部部長に呼び捨てにされ、実に嫌そうな顔をする漣里くん。
 彼がこうまで表情を動かすのは珍しい――即ち、本当に嫌らしい。

「はっはっは。言っただろう、成瀬の弟は俺の弟だと。安心しろ漣里。はた目にも俺より明らかに筋肉量の少ない、可憐な子ウサギのようなお前は、俺たちがきっちり守ってやる。どうだこの肉体美! 頼もしい限りだろう!」
 元サッカー部部長は腕を折り曲げ、立派な力こぶを作ってみせた。

「なんなら自慢のシックスパックも見せてやるぞ」
「見せなくていい。見たくない」
 制服のボタンを外そうとした元サッカー部部長の行動を、漣里くんは即答で阻止。

「そうか、残念だ。まあ良い、これからお前は授業中以外、俺たちと行動をともにしてもらうぞ。俺たちは親衛隊として、休み時間はもちろん、登下校も食事も着替えもトイレも四六時中ぴったり張り付き、万全の態勢でお前を守ると誓――おい待て、何故逃げるっ!?」
 漣里くんは台詞の途中で踵を返し、全速力で逃亡を図った。

「D班に連絡! 護衛対象がそっちへ逃げた! 至急確保されたし!」
 元サッカー部部長は携帯を取り出し、誰かへコール。

「D班了解!」
 携帯から返事があった直後、わき道からこれまた屈強そうな男子三人が飛び出してきて、漣里くんに見事なタックルを決め――どうやら彼らはラグビー部らしい――捕獲した。

 D班って、一体この他に何人が護衛隊に参加しているんだろうか。