翌朝。
 晴れた秋空の下、私は漣里くんと肩を並べて、学校へ続く道を歩いていた。

「……やっぱり一晩じゃ治らないよね」
 漣里くんの顔には昨日と変わらず、大きなガーゼと絆創膏が貼ってある。

「でも痛みは引いた。おまじないのおかげ」
「だったらいいな」
 自己回復力を私の手柄にしようとしてくれるのが嬉しくて、小さく笑う。

 住宅街を抜けて、大通りに差し掛かる。
 しばらく雑談してから、私は切り出した。

「……野田たち、報復しにくるかな」
 不安に駆られ、自然とトーンも落ちる。

「多分大丈夫だと思う。昨日、兄貴はめちゃくちゃ怖かったんだ。表面上はいつも通り笑顔なんだけど、雰囲気が全然違ってて、これまでの顛末を詳しく聞かれた。包み隠さず野田の悪行を全部話せっていうから、小金井が金を巻き上げられてたことも正直に言ったよ。そしたら、なんか薄く笑ってた。怒りの針が振り切れたっぽい」
「それは、怖いね」
 温厚な人ほど怒らせると怖いと聞くけれど、葵先輩はその典型だろう。

「ああ。兄貴は怒ると本当に怖い。だから、心配しなくても大丈夫だ。兄貴が任せろって言った以上、事態が悪化することはありえない。全部なんとかしてくれる」
「……葵先輩に丸投げしてない?」
「仕方ないだろ。お前はもう関わるな、おとなしくしとけって言われてるんだから」

 話しているうちに学校が近づき、視界内の生徒たちの数も増えてきた。
 前方では、おはよー、と女子が友達と挨拶を交わしている。
 そして、その女子二人組は気遣わしげに漣里くんを振り返った。

「……可哀想……」
「酷いことするよねぇ……」
 ……ん?
 私は断片的に聞こえてくるその言葉と彼女たちの眼差しに、違和感を覚えた。

 これまで漣里くんと一緒にいると向けられてきたのは「ほらあれが噂の」とでも言いたげな、好奇の視線。
 でも、辺りを見回すと、今朝の皆の眼差しには深い同情が宿っている。

 ガーゼに覆われている漣里くんの顔を見て、気の毒そうに眉をハの字にしたり、唇を引き結んだりと――明らかにこれまでとは様子が違う。

「……なんだ?」
 漣里くんも事態の変化に戸惑っているみたい。

「昨日のことが広まってるみたいだね。あれだけ目撃者がいたら当然かもしれないけど。昨日は私も友達にラインで色々聞かれたし……」
 話しているうちに、校門が見えてきた。

「……え、みーこ?」
 いつもの校門にはありえない光景を目撃し、私はきょとんとした。
 校門の脇には九人の男子と一人の女子から成る、謎の集団がいた。

 昨日見た筋骨隆々の元サッカー部の部長を筆頭にしたサッカー部の部員たち、男子柔道部の部員、バスケ部の部員、その他、所属のわからない生徒たち。

 彼らの共通点は、どの生徒も素晴らしい筋肉の持ち主の、完全な肉体派であるということ。

 時海の筋肉自慢が一堂に会しているかのような、異様な光景。

 紅一点となっているのが、みーこ。
 彼女は男子軍団と同じく、腕組みして頭に赤い鉢巻を巻き、威風堂々と風に吹かれていた。