「その子の言う通りですよ! 私も見てました!」
 一人の女子が声を張り上げた。
 演劇部なのだろうか、彼女はよく通る声でその場にいた全員の注意を引き付けながら、興奮気味にまくしたてた。

「成瀬くんは弟くんを庇って、殴られそうになったから自分の身を守っただけです! これは完全に正当防衛です!」
「そうです、悪いのは野田たちです!」
「成瀬先輩が処分を受けるのは絶対におかしいです!」
 ありがたいことに、ギャラリーから次々に援護射撃がきた。

「しかし校内暴力は――」
「じゃあ先生は、弟が殴られても黙って見過ごせっていうんですか!?」
 気の強そうな女子が、松枝先生の反論を吹き飛ばした。

「まずは言葉で――」
「あいつらは言葉が通用する人種じゃないんですっ!!」
「先生は暴れ回る猛獣を前にしても言葉で止めろと説得するんですか!?」
 生徒たちは葵先輩を弁護し続け、先生方が何を言おうとも片っ端から否定し、打ち負かしていく。
 ヒートアップする生徒たちの熱気に、私たちは立ち尽くすしかない。

「……真白、成瀬くんを保健室に連れて行ったら?」
 私と同じく、蚊帳の外にいたみーこが提案してきた。
 この騒ぎに乗じて抜けるのは簡単だけど……。
 ちらりと漣里くんを見る。

「いや。俺のせいでこんなことになってるんだから、最後まで見届ける」
「……って、言ってるから」
「そう」
 みーこはあっさり引き下がった。
 そして、葵先輩が歩き出し、言い争っている先生と生徒たちの前に立った。

「みんな、庇ってくれてありがとう」
 透き通った声に、ぴたりと騒ぎが止む。
 その光景は、まるで魔法のようだった。

「でも、いいんだ。僕が暴力を振るった事実は変わらないから……」
 愁いを帯びた、切なげな表情を見せた葵先輩に、多くの女子が心臓を撃ち抜かれたらしい。
 どきーん!! という音がここまで届いたような気がした。
 葵先輩は頬を赤らめ、何も言えなくなった生徒たちを置いて、今度は漣里くんに顔を向けた。

「漣里。この学校にいたら、またこいつらが何かしてくるかもしれない。いまよりもっと酷い目に遭わされるかもしれないから……僕と一緒に転校しようか」
「そんな――」
 悲しげな表情をする葵先輩に、私が何か言うよりも早く。

 主に女子たちから成る悲鳴の合唱が鳴り響いた。
 講堂を揺り動かすほどの大音量に、私は亀のように首を竦ませた。
 多くの生徒たちが葵先輩の前に移動する。