「手酷くやられたみたいだね……痛かったでしょう」
「別に……ていうか、なんでここに?」
「あの子が家庭科室まで呼びに来てくれたんだよ。漣里が危ないからとにかく来てくれって」
 葵先輩はギャラリーのうちの一人の男子を視線で示した。

 その男子――漣里くんと同じクラスの相川くんがぺこりと頭を下げた。

「……ああ、そう」
 漣里くんはなんだか複雑そうな顔。

「何か気に入らないって顔だね?」
「おいしいとこだけもってかれた気がする……俺だってやろうと思えばできた、あれくらい」
「何言ってるの。じっと黙って耐えたんでしょう、立派だったよ、漣里」
 葵先輩は微笑んで、弟の頭を優しくなでた。

「うん。凄いよ。本当に……本当に、偉かったよ!」
 私が同意すると、漣里くんは顔を背けてしまった。
「漣里くん?」
 心配になって問う。

「いや……俺いま、酷い顔になってると思うから。あんま見ないで」
「そんなこと……」
 私たちが会話する一方で、騒ぎを聞きつけたのか、さらに五人ほどギャラリーが増えた。
 えっ、ちょっとこれどうしたの、やばくない、などと女子たちが囁き合っている。

「とにかく怪我の手当てをしないとね。深森さん、保健室に連れて行ってあげてくれる?」
「はい。行こう、漣里くん」
 私が促そうとした、そのとき。

「なんだ、なんの騒ぎだこれは!?」
 生徒の群れをかき分けて、二人の男性教師が現れた。
 強面の男子の体育担当の松枝先生と、化学担当の道長先生だ。

 さすがにまずいと思ったらしく、ざわめいていた生徒たちが静かになる。

 一目で暴行を受けたとわかる漣里くんと、地面に転がっている野田と上杉、そして葵先輩を順番に見た後、先生たちは眉をひそめた。

「これは一体どういうことだ?」
 威圧感たっぷりの、松枝先生の詰問に応じたのは葵先輩だった。
「ご覧の通り、弟がこの二人から暴行を受けていたので、僕がやりました。全て僕の責任です。どのような処分でも受けます」
 葵先輩は真摯に答え、頭を下げた。

「止めろ、兄貴がそんなこと――」
「先生、成瀬先輩が助けてくれなかったら、成瀬くんはもっと酷い暴行を受けてました!」
 漣里くんの言葉を打ち消す声量で以て、私は松枝先生に訴えた。
 葵先輩が頭を下げる必要なんてない。

 弟を守っただけなのに、処分を受けるなんて間違ってる!