「人との縁には一生ものと、そうじゃないものがあるって聞いたけど、お前らは後者だ。卒業すれば二度と思い出さない、そんなどうでもいい奴のために、俺は自分の立場を悪くしようとは思わない」
 縁についての話は、私がこの前、彼にしたことだ。
 誰かを殴ったりして、自分の立場を悪くしないでというのも、私が頼んだ――。

「握れば拳、開けば掌、なんてことわざ、お前らは知らないだろ」
 それも――私が夏休みに、漣里くんに語った話。

「俺の手はお前らみたいな馬鹿どもを殴るためじゃなくて、真白と繋ぐためにある。そう決めたんだ」
 誰かが追い付いてきたらしく、ばたばたと背後から複数の足音が近づいてくる。

 でも、私はそんなことどうでも良く、ただ漣里くんに釘付けだった。
 腫れた頬、切れた唇、土で汚れた制服。
 見るからに痛々しい、その姿。

 これだけ痛めつけられてなお、卑劣な不良たちに屈することなく、堂々と言い放つその輝きに圧倒されて、目が離せない。

「俺は真白と一生、手を繋いで生きていきたい」

 彼はいま、世界中の誰よりも勇ましく、格好良く――ああ、もう言葉でなんて言い表せない。

 言葉の代わりに、私は彼の手を強く握り返した。
 漣里くんと一緒に、抗議の意思を込めて野田たちを睨みつける。

「はあ?」
 けれど、漣里くんの決意表明は野田たちの心に全く響かなかったらしい。

 逆に神経に障ったかのように、野田は片眉を跳ね上げた。
 上杉なんて地面に唾を吐いた。

「おてて繋いで一生彼女とラブラブしたいんですーってか。馬鹿なのお前?」
 心底あきれ果てたように、鼻を鳴らす野田。

「状況わかってねえわけ? ノーミソお花畑なの? けっ、それなら呑気に花咲かせたまんま二人仲良く死ねやオラぁ!」
 野田は突進してきて、拳を振り上げた。

「!!」
 反射的に身を竦めた私を漣里くんが抱きしめ、庇おうとしてくれた。
 また漣里くんが怪我をするのかと、絶望的に思ったその瞬間。

 視界の端を影が走った。
 ……え。

 呆気に取られている私の前――つまり、私と漣里くんを守るように立ちはだかり、片手で野田の拳を止めているのは、まさかの――

「……葵先輩!?」
 すっとんきょうな声で名前を叫ぶ。

「よく耐えた、漣里」
 葵先輩は野田の拳を止めながら、少しだけ振り返って微笑んだ。