「でも来なかったら来なかったで、さらに手持ちが悲惨なことになるから、来たほうが良いよね」
「いやだ! 巻き上げられるくらいなら最初から来ないほうがましだ!」
「駄々っ子か」
軽口を叩き合いながら皆に次のカードを配っていると、廊下を走る足音が聞こえてきた。
それも、全速力で駆ける足音。
何事かと、クラスの半分くらいの生徒が音が聞こえてくる方向――前方の扉を見た。
私がカードを配る手を止めてそちらに顔を向けるのと、
「深森先輩!」
切羽詰まったような叫び声が放たれたのはほとんど同時だった。
扉に手をかけ、息を切らしているのは、眼鏡をかけた、おかっぱの女子。
漣里くんの教室で何度か見かけているから、漣里くんのクラスメイトだと、すぐにわかった。
「はい?」
尋常ではない様子に、不安を覚えながら立ち上がる。
わざわざ二年の私のクラスにまでやって来るってことは、相当なことだよね……?
蜂の巣をつついたように、胸の中がざわめき出す。
私の接近を待たずに、彼女は興奮気味にまくしたてた。
「私は成瀬くんと同じクラスの末石《すえいし》っていいます。段ボールが足りなくなって、あ、知ってるかもしれませんが私のクラスはお化け屋敷をするから段ボールがたくさん必要で、それで、成瀬くんが相川《あいかわ》くんと追加の分を取りに行ってくれるって言って、さっき帰ってきたんですけど、いえあの、帰ってきそうだったんです! 窓から相川くんと台車を引っ張ってる姿が見えたんです! たまたま私は廊下にいたんで、窓から見えたんです」
混乱しているせいか、末石さんの説明は要領を得なかった。
相川くんという子は漣里くんが「友達になれそうな人」と言っていたから知っている。
漣里くんをクラスの輪に入れるために橋渡しをしてくれた男子だ。
「私は手伝おうと思って、外に出たんです。そしたら成瀬くんがいなくなってて、相川くんがおろおろしてて、どうしたのって聞いたら成瀬くんが野田先輩に連れて行かれたって!」
「!!」
ざあっと、一斉に私の顔から血の気が引いていくのがわかった。
……嘘でしょう?
なんでいまさら、どうして野田くんたちが干渉してくるの?
しかもこのタイミングで?
放課後っていっても、文化祭準備のためにたくさんの生徒が残ってるのに。
心臓がどくどくとうるさい。
漣里くんの隣で平和に笑っていた昼休憩の出来事が、遠く感じる。
「最初は先生を呼ぼうかと思ったんですけど、もし殴り合いとかしてたら成瀬くんまで処罰を受けかねないし、話し合って、相川くんがお兄さんの成瀬先輩を探しに行くって言って、私はどうしようって思ったら、深森先輩の顔が浮かんで、とにかく連絡しなくちゃって――」
「どこに連れて行かれたかわかる!?」
私は台詞を遮って、末石さんの両肩を掴んだ。
「ええっと、多分、講堂のほうに連れて行かれたんじゃないかって……」
「ありがとう!」
叫んで教室を飛び出す。
「深森先輩――」
「ちょっと、真白!」
背後からみーこの声が聞こえたけれど、耳には届いても頭には入って来なかった。
講堂のほう――というと、講堂の裏だろう。
あそこは三方をフェンスとコンクリートの壁に囲まれた、人目を嫌う不良が好みそうなスペースだ。
人目を気にしなきゃいけないことっていったら……やっぱり……
恐ろしい想像に、鳥肌が立った。
どうか、漣里くん、無事でいて……!
「いやだ! 巻き上げられるくらいなら最初から来ないほうがましだ!」
「駄々っ子か」
軽口を叩き合いながら皆に次のカードを配っていると、廊下を走る足音が聞こえてきた。
それも、全速力で駆ける足音。
何事かと、クラスの半分くらいの生徒が音が聞こえてくる方向――前方の扉を見た。
私がカードを配る手を止めてそちらに顔を向けるのと、
「深森先輩!」
切羽詰まったような叫び声が放たれたのはほとんど同時だった。
扉に手をかけ、息を切らしているのは、眼鏡をかけた、おかっぱの女子。
漣里くんの教室で何度か見かけているから、漣里くんのクラスメイトだと、すぐにわかった。
「はい?」
尋常ではない様子に、不安を覚えながら立ち上がる。
わざわざ二年の私のクラスにまでやって来るってことは、相当なことだよね……?
蜂の巣をつついたように、胸の中がざわめき出す。
私の接近を待たずに、彼女は興奮気味にまくしたてた。
「私は成瀬くんと同じクラスの末石《すえいし》っていいます。段ボールが足りなくなって、あ、知ってるかもしれませんが私のクラスはお化け屋敷をするから段ボールがたくさん必要で、それで、成瀬くんが相川《あいかわ》くんと追加の分を取りに行ってくれるって言って、さっき帰ってきたんですけど、いえあの、帰ってきそうだったんです! 窓から相川くんと台車を引っ張ってる姿が見えたんです! たまたま私は廊下にいたんで、窓から見えたんです」
混乱しているせいか、末石さんの説明は要領を得なかった。
相川くんという子は漣里くんが「友達になれそうな人」と言っていたから知っている。
漣里くんをクラスの輪に入れるために橋渡しをしてくれた男子だ。
「私は手伝おうと思って、外に出たんです。そしたら成瀬くんがいなくなってて、相川くんがおろおろしてて、どうしたのって聞いたら成瀬くんが野田先輩に連れて行かれたって!」
「!!」
ざあっと、一斉に私の顔から血の気が引いていくのがわかった。
……嘘でしょう?
なんでいまさら、どうして野田くんたちが干渉してくるの?
しかもこのタイミングで?
放課後っていっても、文化祭準備のためにたくさんの生徒が残ってるのに。
心臓がどくどくとうるさい。
漣里くんの隣で平和に笑っていた昼休憩の出来事が、遠く感じる。
「最初は先生を呼ぼうかと思ったんですけど、もし殴り合いとかしてたら成瀬くんまで処罰を受けかねないし、話し合って、相川くんがお兄さんの成瀬先輩を探しに行くって言って、私はどうしようって思ったら、深森先輩の顔が浮かんで、とにかく連絡しなくちゃって――」
「どこに連れて行かれたかわかる!?」
私は台詞を遮って、末石さんの両肩を掴んだ。
「ええっと、多分、講堂のほうに連れて行かれたんじゃないかって……」
「ありがとう!」
叫んで教室を飛び出す。
「深森先輩――」
「ちょっと、真白!」
背後からみーこの声が聞こえたけれど、耳には届いても頭には入って来なかった。
講堂のほう――というと、講堂の裏だろう。
あそこは三方をフェンスとコンクリートの壁に囲まれた、人目を嫌う不良が好みそうなスペースだ。
人目を気にしなきゃいけないことっていったら……やっぱり……
恐ろしい想像に、鳥肌が立った。
どうか、漣里くん、無事でいて……!