「そんなの気にしなくても、食べたいものを食べればいいのに」
「いいえ、これは女子のプライドの問題です」
「そういうもんなのか?」
「ええ、そういうものなんです」
 私はしたり顔で頷いてみせた。

「ふーん」
 漣里くんは適当に返事をして、他に興味を惹かれるものがあったのか、ふいっと顔を逸らした。

 長いまつ毛に縁どられた大きな目が、メニュー表を眺めている。
 自覚はないらしいけど、漣里くんはとっても格好良い。この場にいる誰よりも。

 私はみーこのような美人じゃないけど、せめて体重面だけでもコントロールして、漣里くんにふさわしい女子でいたいんだよ。

 談笑しながら、漣里くんとカウンターへ向かう。
 ただそれだけで、満たされた気分。

 一週間ずっと他人のふりを強いられてきた分、いま隣にいられることが、何よりも嬉しくて、幸せ。

 彼が私の名前を呼んで、きちんと私を見てくれることが――。

 それぞれ頼んだメニューが載ったトレーを持ち、食堂に並ぶ長方形の白いテーブルのうち、空いている席に向かい合って座る。

 次々と生徒が押し寄せ、席は埋まっていったけれど、私と漣里くんが座った窓際の六人掛けテーブルには誰も来ない。

 ……うーん、やっぱりまだ敬遠されてるみたいだなぁ。

 遠くのほうからちらちら見てくる人もいるし。

 でも、夏休み明けのような零下の眼差しじゃないだけ良しとするべきか。
 気にしないようにしよう、と自己暗示をかけ、漣里くんと談笑していると。

 急に食堂内がざわついた。
 主に女子たちが。

 ん?
 話を中断し、水を飲みながら視線の先、食堂の入り口を見ると、無数の視線の交差点にいるのは葵先輩だった。

 葵先輩はカウンターで学食を注文しているけれど、その姿は決して生徒の中に埋没したりはしない。
 むしろ同じ服を着た群衆の中にいるからこそ、異彩を放って見える。

 私の後ろの席にいた女子が、ほう、とため息をつく音が聞こえた。

 ……凄いなぁ、葵先輩。
 わかめうどんが載ったトレーを持って歩いてるだけなのに、皆、釘づけだよ。
 葵先輩を中心に、きらきらと光の粒子がまき散らされて見えるのは目の錯覚なのかな。

 葵先輩が持っていると、ただのわかめうどんが高級料理に見えてしまうマジック。

 そしてお決まりのように、彼の元には女子が群がった。

「一緒に食べましょう」「いや私と」以下略。
 その光景は、さながら美しい花に集う蝶の群れ。

 葵先輩は控えめな笑顔を浮かべて女子たちと会話し、そして、不意にこちらを見た。
 眼鏡の奥の目が私と合う。

 彼は面白いものを見たかのように笑って、やんわりと女子たちの誘いを断り、こちらへやってきた。

「同席しても良いかな? 深森さん、漣里」
「あ、はい。私は構いませんけれども」
 向かいの漣里くんの顔色を窺う。

「……。なんでわざわざこっちに来るんだよ」
 漣里くんは微妙に不機嫌顔。