私はやるせない気持ちで生徒玄関に下り、漣里くんの靴箱の蓋を開けた。
外靴が入っている。
ということは、まだ帰っていない。
校舎のどこかにいるはずだ。
どこだろう……?
少し考えてから、私は特別棟の校舎に向かった。
文化祭準備期間であろうと関係なく、あそこは立ち入り禁止だ。
普通の生徒はまず寄り付かない。
でも、だからこそ、あそこはいまの漣里くんのように、居場所のない人たちの居場所になる。
二階の家庭科室から、女子たちの楽しそうな笑い声が聞こえる。
その声を聞きながら、特別棟の階段を上り、途中で資材を抱えた生徒たちとすれ違い、屋上へ。
ドアノブに手をかけると、鍵はかかってなかった。
誰かがいる証拠だ。
はやる気持ちを抑えて、私は扉を開け放ち――そして、固まった。
夕陽が差す屋上には、確かに人がいた。
でもそれは私の望んだ人ではなく、むしろ会いたくなかった人たち。
真ん中にいるのはかつて漣里くんが殴った相手、野田健吾《のだけんご》。
大柄で、横幅もある男子。英語のロゴが入った真っ赤なシャツの上にカッターシャツを羽織り、胸には趣味の悪い髑髏のシルバーアクセサリー。
彼は狂犬そのものの目つきをしていて、歩くと自然と皆が道を避ける。
万引きしたり、街の不良グループを潰して回ったという漣里くんの噂は、本来彼のものらしい。
野田くんの右にいるのが上杉敦《うえすぎあつし》。
ブリーチで脱色した髪に、そり上げた眉。
野田くんとは対照的に、彼は細身の体格だった。
ただし野田くんの右腕になるほど喧嘩は強いと聞く。
左にいるのが小太りの加藤剛《かとうつよし》で、彼は野田くんと上杉くんの腰巾着。
野田くんの祖母は市議会議員で、加藤くんの叔父さんは教育委員会の委員らしい。
だから先生たちも彼らにはあまり強く注意できないんだと聞いた。
漣里くんが殴った相手が五組の野田くんだということを知って、私はどんな人なのかと情報を集め、実際に見に行ったことがある。
ちょうど昼休憩だったそのとき、野田くんは林くんという男子生徒にパンを買いに行かせていた。
林くんは気弱そうな生徒。
直感的に漣里くんが庇った相手は林くんだろうと思った。
五組の生徒の話によれば、林くんは入学当初から野田くんに目をつけられ、苦労しているそうだ。
それを気の毒に思う生徒もいるけれど、自分に火の粉が降りかかると困るから、皆見て見ぬふり。
教師もなんとなく察していても、野田くんたちの背後にいる権力者のことを思うと強くは言えない。
多分、この学校で一度でも野田くんたちの横暴を止めたことがある勇者は漣里くんだけだ。
「ああ?」
屋上のど真ん中で車座になり、何か話していた彼らは私を見て不愉快そうな顔をした。
「何見てんだゴラァ! ここは俺ら以外立ち入り禁止だ、失せろ!!」
「ひっ」
加藤くんに巻き舌で凄まれて、心臓が縮み上がる。
「な、なんでもないですっ、お邪魔しました!」
私は扉を閉め、泡を食って逃げ出した。
外靴が入っている。
ということは、まだ帰っていない。
校舎のどこかにいるはずだ。
どこだろう……?
少し考えてから、私は特別棟の校舎に向かった。
文化祭準備期間であろうと関係なく、あそこは立ち入り禁止だ。
普通の生徒はまず寄り付かない。
でも、だからこそ、あそこはいまの漣里くんのように、居場所のない人たちの居場所になる。
二階の家庭科室から、女子たちの楽しそうな笑い声が聞こえる。
その声を聞きながら、特別棟の階段を上り、途中で資材を抱えた生徒たちとすれ違い、屋上へ。
ドアノブに手をかけると、鍵はかかってなかった。
誰かがいる証拠だ。
はやる気持ちを抑えて、私は扉を開け放ち――そして、固まった。
夕陽が差す屋上には、確かに人がいた。
でもそれは私の望んだ人ではなく、むしろ会いたくなかった人たち。
真ん中にいるのはかつて漣里くんが殴った相手、野田健吾《のだけんご》。
大柄で、横幅もある男子。英語のロゴが入った真っ赤なシャツの上にカッターシャツを羽織り、胸には趣味の悪い髑髏のシルバーアクセサリー。
彼は狂犬そのものの目つきをしていて、歩くと自然と皆が道を避ける。
万引きしたり、街の不良グループを潰して回ったという漣里くんの噂は、本来彼のものらしい。
野田くんの右にいるのが上杉敦《うえすぎあつし》。
ブリーチで脱色した髪に、そり上げた眉。
野田くんとは対照的に、彼は細身の体格だった。
ただし野田くんの右腕になるほど喧嘩は強いと聞く。
左にいるのが小太りの加藤剛《かとうつよし》で、彼は野田くんと上杉くんの腰巾着。
野田くんの祖母は市議会議員で、加藤くんの叔父さんは教育委員会の委員らしい。
だから先生たちも彼らにはあまり強く注意できないんだと聞いた。
漣里くんが殴った相手が五組の野田くんだということを知って、私はどんな人なのかと情報を集め、実際に見に行ったことがある。
ちょうど昼休憩だったそのとき、野田くんは林くんという男子生徒にパンを買いに行かせていた。
林くんは気弱そうな生徒。
直感的に漣里くんが庇った相手は林くんだろうと思った。
五組の生徒の話によれば、林くんは入学当初から野田くんに目をつけられ、苦労しているそうだ。
それを気の毒に思う生徒もいるけれど、自分に火の粉が降りかかると困るから、皆見て見ぬふり。
教師もなんとなく察していても、野田くんたちの背後にいる権力者のことを思うと強くは言えない。
多分、この学校で一度でも野田くんたちの横暴を止めたことがある勇者は漣里くんだけだ。
「ああ?」
屋上のど真ん中で車座になり、何か話していた彼らは私を見て不愉快そうな顔をした。
「何見てんだゴラァ! ここは俺ら以外立ち入り禁止だ、失せろ!!」
「ひっ」
加藤くんに巻き舌で凄まれて、心臓が縮み上がる。
「な、なんでもないですっ、お邪魔しました!」
私は扉を閉め、泡を食って逃げ出した。