文化祭準備が始まってからずっと、私は彼のことばかり気にしている。
 これまでは孤立していてもどうにかやり過ごせただろうけど、全員参加のイベント事にはどうしても、クラスメイトとの交流が必要になってくる。

 独りぼっちの彼がどんな憂き目に遭っているのか、想像するだけで胸が締めつけられる思いだった。

「……ラインで聞いてみたら、それなりに、って返事は来たけど」
「それなりに、か。一応準備には参加してるけど、ハブられてるって感じかなぁ」
「…………」
 ……心配だ。
 でも、私にできることなんて何もない。

 誰よりも漣里くんがそれを望んでない以上、余計なお世話にしかならないんだもの。

「……遠目にでもいいから、こっそり様子を見に行きたいんだけど、二年が一年棟に入るのは気が引けるんだよね……一・二年が同じ校舎だったら良かったのに」
 出来上がった青い花を完成品に重ねて、小さくため息をつく。

 この一週間で三回ほど、私は漣里くんと学校で顔を合わせる機会があった。
 一回目は登校途中。二回目は移動教室。

 三回目は昨日の下校途中、校門付近でのことだ。
 三回目は隣にみーこもいた。

 私を無視した漣里くんを見て、みーこは「なにあれ」と怒っていた。

 私よりも怒って見えたみーこには、仕方ないよ、と答えるしかなかった。
 そう、仕方ない。

 学校以外では普通に話してくれても、学校で出会ったときは無視される。
 それが私たちのルール。

 でも、確かに目が合ったのに、見ず知らずの他人のように顔を背けられるのは、少々――いや、本当は物凄くショックだ。

 そうすると言われていても、覚悟していても、泣きたくなってしまう。
 無視した後は必ずフォローしてくれるんだけど、なんでって。
 どうしてって、つい思ってしまう。

 私も他の学生カップルみたいに仲良くしたい。
 お昼を一緒に食べたり、くだらないことで笑ったりしたい。

 漣里くんの傍にいたいのに、そんな単純な願いが叶わない。

「あんたさあ、本当にこのままでいいわけ?」
 肩を落としたまま、のろのろと次の折り紙をとった私に、みーこが真剣な表情で聞いてきた。

 いいわけがない。
 喉まで出かかった言葉をぐっと堪える。

「……それが漣里くんの望みだもん」
「違う、私が聞いてるのは成瀬くんじゃなくてあんたの意見。彼氏があることないこと好き勝手に言われてるこの状況、我慢できるわけ?」
「しょうがないじゃない」
 人が苦労して胸の奥底に沈めている不満を無遠慮に突いてくるみーこを、私は睨みつけた。

「私にどうしろっていうの。何もしないでほしいって言われてるんだよ? ごめんって謝られたんだよ? 我儘をぶつけて困らせたくないの。嫌われたくないの」
「ふーん。彼女でいたいがために我慢するんだ。健気だねぇ」
 喧嘩でもしたいんだろうか。

 睨む私を無視して、みーこはぽいっと、折り紙の花の山の上に、完成したばかりのオレンジ色の花を指先で放った。