「……漣里くん?」
 私は呆けた声で呟いた。

「友達らしき人はいなさそうだけど。何。見捨てられた? それとも最初からいなかった? だとしたら、なんでそんな嘘ついたわけ」
 漣里くんは私の前に屈んで、私を睨んだ。

「……あ……」
 瞬きすると、涙が零れ落ちていった。

「足を挫いたなんて言って、迷惑かけたくなかったの。だって、私は、いつも迷惑かけてばっかり……」
 しゃくりあげる。
 優しい漣里くんは、きっと助けてくれると思った。

 でも、その優しさに甘えたくなかった。
 見捨てられてもいいから、漣里くんには楽しんでほしかった。

 ――嘘だ。そんなの、きれいごとだ。
 だって、私はこんなにも喜んでしまっている。

 彼が来てくれて嬉しいって、全身の細胞が叫んでる。
 漣里くんは私の膝を見た。

 まだ泥で汚れているから、転んだことはすぐにわかったのだろう。
 そして、腫れた左足首を見て、ため息をつく。

「なんで迷惑なんて思うんだよ。困ったときには素直に頼れよ。なんのために俺がいるんだよ。俺は真白が困ってるときは助けたいし、力になりたい。真白は違うのか? 俺が助けを求めたら迷惑か?」
「そんなことない。力になりたいよぉ……」
 ぼろぼろ涙がこぼれる。

「真白が遅刻したのは店の手伝いをしてたからだろ。人が足りなくて困ってる親を助けたんだ、真白は偉い。立派だよ。それなのに、なんで遅刻したら俺が怒ると思ってるんだよ。俺はどれだけ心が狭い奴だと思われてるんだ。真白と花火見るの、凄く楽しみにしてたのに。なんで変な嘘つくんだよ。馬鹿」
「ごめんなさい……」
 涙が顎を伝って、地面に落ちる。

「次はちゃんと、嘘をついたりごまかしたりせずに、正直に助けてって言う。約束する……」
 私は本当に、馬鹿なことをした。

 漣里くんが怒ってるのは、長いこと待たせたせいじゃない。
 私が余計な気を遣って、嘘をついたからだ。

 助けてって、最初から言えば良かった。
 意地もプライドも投げ捨てて、素直に謝って、頼れば良かったんだよ。

「うん。許す」
 彼は笑う。――笑った。
 こんな馬鹿な私にも、漣里くんはまだ笑ってくれる。

 私はもう、笑い返せばいいのか、感情のままに泣けばいいのかわからず、泣き笑いのような状態になってしまう。

 それから、漣里くんは私に背を向けて、中腰の姿勢になった。

「乗って」
「え。でも」
「いいから乗れ。時間がもったいない」
「……はい」
 私は恐る恐る、漣里くんの肩に腕をかけ、その背中に乗った。

 漣里くんは私を背負って立ち上がり、歩き出した。
 川の方向へ――花火大会の会場に向かって。

「そのワンピース、可愛い。似合ってる」
 もしかして、このワンピースが今日のために買ったものだって、気づいてくれたのかな。