夜空には大輪の花が咲いていることだろう。
 視界いっぱいに広がる、美しい花火が。

「…………」
 泣くな、と思っても、勝手に涙が溢れてくる。
 できることなら、私も漣里くんと一緒に見たかった。
 恋人にはなれなくても、友人としてでも良かったんだ。

 傍にいられたら、それだけで。

 花火の音が全身を包む。
 心臓に共鳴して、芯から震える。

 ああ、さぞ綺麗だったんだろう。
 彼と一緒にその光景を見られたら、どんなに。

 本当に、幸せだったんだろうね。

「ひっ……」
 顔を覆った瞬間、本格的に涙が溢れてきた。

 ごめんなさい、漣里くん。
 彼はどんな思いで私を待っていたんだろう。
 手を繋いで歩く恋人たちを、楽しそうに笑う家族連れや仲良しグループを、どんな思いで見ていたんだろう。

 たった一人で。
 きっと、一時間は待っててくれたよね。
 そんなに長い間、私を待っていてくれたのに。

「うえぇ……っ」
 泣いたってどうにもならないとわかってるのに、後悔ばかりが胸を締めつけ、私を責め立てる。

 馬鹿、馬鹿。私は本当に大馬鹿だ。
 信じられないくらいの愚か者。
 散々迷惑をかけておいて、トドメがこれなんて、どうやって償えばいいんだろう。

 ううん、もう償うことすらできない。
 謝ったってきっと許してくれない。
 関わることすら拒絶されるかもしれない。

 たとえもし次に顔を合わせることがあっても、冷たい無表情で私を見るだけだ。
 これまで積み上げてきた時間はリセットされて、目さえ合わせてくれないかもしれない。

 もう二度と笑ってくれない。
 彼の傍にはいられない。

 それこそが私にとって、最大の罰だ。

 泣きじゃくっていると、花火の音に重なって、前方から近づいてくる足音が聞こえた。

 ぼろぼろの状態でも、恥ずかしいと思う気持ちは残っていた。
 ハンカチを取り出して、急いで目元を拭く。

 顔を押さえ、相手が通り過ぎるのを待つ。
 でも、道端でうずくまっている私に興味を覚えたのか、相手は私の前で立ち止まった。

 嫌だな。警察官かな。
 心配されても困る。

 いまは誰にも話しかけられたくない。
 顔、ぐちゃぐちゃだし。
 髪だってぼさぼさで、ワンピースも汚れてしまっている。

 人生でワースト3に入るような悲惨な状態。
 早くどこかに行ってほしい。

 心からそう願っていると。

「どこに友達がいるんだ?」

「…………え」
 聞こえてきた声に、私は反射的に顔を上げていた。

 仏頂面で、漣里くんが立っていた。