在宅だった葵先輩と超美人のお母さまにご挨拶させてもらい、リビングで三十分ほど話した後。

 帰り道は漣里くんに送ってもらった。

 私は両手で自転車を押して。
 漣里くんは何も持たず、私の傍を歩く。

「私が熱中症になりかけたときとは逆だね。あのときは漣里くんが自転車を押して歩いてた」
「そうだな。あのときは、こんなふうに二人でまた歩くことになるとは思わなかった」
 漣里くんは微かに笑った。

「真白と知り合えてよかった」
 そんなことを言われて、ドキッと心臓が鳴った。

「そ、それは、うん。私も」
 照れながら頷く。

 しばらく、沈黙。
 でも、もう気まずいなんて思ったりしない。
 むしろ、この沈黙が心地良いとすら思える。

「……あのさ。土曜日、花火大会あるだろ」
「うん」
「予定がなかったら、一緒に行かない?」
 まっすぐに私を見つめる、漣里くんの瞳。
 心臓が、また音を立てた。

「……親が許すかわからないけど……もし許可が出たら行く。行きたい!」
 言い直すと、漣里くんはまた笑った。
「俺も。真白と行きたい」



 ふわふわと、心に羽根が生えてしまったかのように落ち着かない。
 帰宅した私はそのまま自室へと直行した。

 ぼふっ。
 飛び込むようにベッドにダイブする。

 ……どうしよう。
 漣里くんと一緒に花火大会に行くって約束しちゃった……!!

「ひゃー!!」
 私は枕を抱きしめ、うつ伏せのままバタバタと足を動かした。

 夜に二人きりで花火を見る。
 これってなんか、デートみたい!!

 夜に男の子と二人きりで出かけるなんて、出かけたいと思う人がいるなんて、これって凄いことだ。
 頑張ってお母さんたちを説得しないと……!!

 身悶えていると、ラインのメッセージの受信音がした。

「!!!」
 私は枕から手を離し、勢いよく起き上がった。
 鞄からスマホを取り出して確認する。

『今日はわざわざ来てくれてありがとう』

 漣里くんから、そんなメッセージが届いていた。
 私の頬は自然と緩んだ。
 ベッドに仰向けに寝転がって、スマホを頭上に掲げる。

 さて、どんな返事をしよう?
 気づけば私の頬は緩んでいた。

 彼とラインをするとき、私はいつも笑っている。
 彼と一緒にいるときもだ。
 気づけば私は笑っている。

「ふふ」
 これが幸せってことなのかもしれない。
 私は微笑んだまま指を動かし、文字を打った。



 ちょっと遅くなっちゃったな。
 バスの窓の外に広がる夜景から、私は腕時計へと視線を移した。

 時刻は七時半過ぎ。
 友達とプールで遊んで、ファミレスで夕食を食べながら雑談している間に、いつの間にかこんな時間になってしまった。

 私の家の門限は八時。
 でも、あと三十分もあれば間に合うよね。
 信号待ちをしていたバスが動き出して、目的地である駅に着いた。

「ありがとうございました」
 バス代を支払ってお礼を言うと、運転手さんから「お気をつけて」と返された。

 感じの良い運転手さんだ。
 バスから降り、上機嫌で駅前の通りを歩く。
 駅前は人通りが多い。
 帰路を行く人々に向かって、居酒屋のエプロンを着たお兄さんが呼び込みをしている。

 夜空には星が瞬いている。
 明日はきっと晴れだろう。
 良かった。