自転車に飛び乗り、急いで漣里くんの家に向かうと、漣里くんはまだ外にいた。
 庭の木の前にしゃがんで、ある一点を見ている。
 彼の視線の先には墓石に見立てたらしい丸い石が置いてあった。

 言われなくともわかる。
 あれがもちまるのお墓なのだろう。

「漣里くん」
 声をかけると、漣里くんはゆっくりとした動きで私を振り返った。
 彼の表情はない。
 なんでここに、とも言わない。

 彼の頭上に広がる空は曇っていて、星一つ見えない。
 漣里くんの気持ちをそのまま表しているかのようだった。

「……もちまる、亡くなっちゃったんだってね」
「ああ」
 棒読みのような口調が、とても悲しい。

「……私もお墓参りさせてもらってもいい?」
「どうぞ」
 漣里くんは横に移動して、私に場所を譲ってくれた。
 二人肩を並べて、もちまるのお墓の前で屈む。

 漣里くんの肩が私の肩に触れる、そんな距離。
 もちまるのお墓を見て、再び漣里くんの横顔を見る。
 悲しみに暮れて、沈みきった、無表情。

「……もちまる」
 私は再びもちまるのお墓に向き直り、両手を合わせて目を閉じた。

「漣里くんと離れるのはとても悲しいと思います。寂しいと思います。でも、安心してください。私がもちまるの分まで漣里くんを幸せにします……とは言い切れませんが、努力します」
「……ちょっと待て。なんだそれ」
 隣から突っ込まれて、そちらを向く。

 漣里くんは呆れたような、怪訝そうな、複雑な顔をしている。

「だって、私がもちまるだったら、自分がいなくなって落ち込んでる漣里くんを心配すると思うの。漣里くんが好きだった分だけ、もちまるも漣里くんのことを好きだったと思う」
「……そんなこと、わかるわけない」
「わかるよ」
 目を逸らしてしまった漣里くんに、私は訴えた。

「漣里くんはもちまるの写真や動画を送ってくれたでしょう? 楽しそうにもちまるとの思い出を話してくれたでしょう? 私は知ってるよ。漣里くんがもちまるのことが大好きだったこと。大切にしてたこと。もちまるだってきっと、漣里くんのことが大好きだったよ」

「…………」
 漣里くんは何も言わない。
 落ち込んだ顔のまま、視線をもちまるのお墓に向けている。
 悲しみに閉ざされた心を開くには、もう一押しが必要なようだ。

「ちょっと失礼」
 私はそう前置きして、漣里くんの右手を取った。
 驚いたように漣里くんが私を見る。

「漣里くん。突然だけど、手のひらのことを『たなごころ』っていうのは知ってる? たなごころは『手の心』っていう意味があるの」
「……は?」
 漣里くんは、わけがわからない、という顔をした。