「あれはお母さんにからかわれたから焦って、ついそう言っちゃっただけで、ただの知り合いだなんて思ってないよ!? 漣里くんのことはもっと大切な人だと思ってる」
 気のせいか、漣里くんが不機嫌そうに見えたので、私は慌てて言った。

「なら、俺たちってどういう関係?」
 私は返答に困った。
 改めて聞かれると、私たちってどういう関係なんだろう?

 ただ事実だけを言うなら。

「……学校の先輩と後輩……?」
 首を捻る。
「要するに同じ高校生。やっぱりただの知り合いでいいんじゃないのか」

「でも、私は友達になれたらいいなって思ってる! 漣里くんの友達になれるように努力したい!」
 両手を握って叫ぶと、漣里くんは目を大きくした。

 私の顔は多分赤くなっている。
 それでも、正直な気持ちを伝えたかった。

 道行く人たちが私たちを見ている。
 人通りがそれなりにある道端で叫んだのだから、注目されて当然だ。
 恥ずかしいけど、他人の視線なんて、いまはどうでも良かった。

「……そんな大真面目な顔で友達になりたいって言われたの初めてだ」
 ややあって、漣里くんは微笑んだ。

「俺なんかで良かったら」
「『なんか』じゃない。私は漣里くんだから友達になりたいの」
「そんなふうに説教してくる女子も初めて」
「えっ。あ、ごめん。押しつけがましいよね」
 考えてみれば、傷の手当をしたときも、私は彼に説教じみたことを言ってしまっている。
 面倒くさい、重いと思われる要素は十分だ。

「いや。遠慮なく言ってくれるほうがいい」
 けれど、漣里くんはあっさりと首を振った。

「俺のためを思っての言葉は嬉しい。そういうとこ、兄貴と被るんだよな、先輩って」

「その呼び方なんだけど。友達になるための第一歩として、これからは『先輩』じゃなく、ちゃんと名前で呼んでほしいな」
「じゃあ真白で」
「!?」
 胸がどきんと跳ねた。

 いや、確かに名前で呼んでほしいとは言いましたが!!
『先輩』じゃなく、ちゃんと『深森先輩』と呼んでほしいという意味だったんですが!?
 まさか下の名前で呼ばれるとは思わなかったんですけども!?

 親戚でも家族でもない男の子から呼び捨てにされたことなんてない。
 どんなに頑張っても名字の『深森』だ。

「……顔真っ赤だけど、大丈夫? やっぱり先輩に戻す?」
 吹きつけてきた風に押されたかのように、漣里くんは少しだけ首を傾けた。

「え……いや……あー……、いや! いやっ、真白でいいよ! 私も漣里くんって名前で呼んでるし! うん、真白でいこう!」
 私は赤面しつつ、こくこく頷いた。

「じゃあ真白だな」
 漣里くんは心なしか、ちょっと嬉しそうに私の名前を呼んだ。
 な、なんでそんな顔するんだろう。

 ――それから私たちは本屋へ行って、雑貨巡りをして、楽しい時間を過ごした。
 別れ際には、またスイーツを食べに行くことを約束した。
 とても幸せな一日だった。