「お待たせしました」
 話が途切れたタイミングで、注文していたパンケーキとシナモンロールが届いた。
 私が注文したシナモンロールは丸いお皿に載っていて、他のお店で出されるものと見た目に大きな違いはない。

 けれど、パンケーキは衝撃的。
 漣里くんの前に置かれた正方形のお皿には、四枚のパンケーキと、フルーツとホイップクリームがこれでもかと盛られている。

 店員さんは四つのシロップを持ってきた。
 二種類のメープルシロップと、ストロベリーとブルーベリーのシロップ。

「……確かにこれは凄いボリュームだな」
 店員さんが立ち去った後で、漣里くんが呟いた。

「写真撮る?」
「いや、いい。インスタとかやってないし、写真を撮る趣味もない」
「私も。シナモンロールの味見してみない? このお店はシナモンロールも絶品なんだって」
「……食べる。パンケーキも切るから、味見して」
「うん」
 私はシナモンロールを切り分け、漣里くんのお皿にのせた。
 お返しとばかりに、漣里くんも小さく切ったパンケーキを私のお皿にのせた。

「おいしい」
 漣里くんはシナモンロールを一口食べて、小さく笑った。

「そっか、良かった」
「…………」
 漣里くんは何故か、じっと私を見つめた。

「どうかしたの?」
「先輩は俺が喜ぶと笑うな」
「? それって普通のことじゃないの?」

 誰かが喜んでいるのを見ると、嬉しくなって自然に笑顔が浮かぶものじゃないんだろうか。
 好意を抱いている相手ならなおさら――あ、いや、特別な『好き』という意味じゃなくて、あくまで友人として、ね。

 漣里くんはシロップを見た。
 どれにしようか迷った様子の後で、色が濃いほうのメープルシロップを手に取ってクリームにかけた。

 ナイフとフォークを使ってパンケーキを切り、クリームをつけて一口。
 うん、というように軽く頷いて、また食べる。

「………………」
 やばい、何この人、可愛い。
 無表情なのに、背後に花が咲いているのがわかって、私は必死で笑いをこらえた。

 会話の合間にシナモンロールを口に運ぶ。
 それからしばらくして、片手に水を持ったウェイトレスさんがやってきた。

「お水のお代わりはいかがでしょうか?」
「あ、お願いします。漣里くんは?」
「いい」
 私の水を注ぎ足した後、ウェイトレスさんは私たちを交互に見て笑った。

「羨ましいですねぇ。夏休みにカップルでデートなんて」
「そんな……」
「カップルじゃないです。俺たちはただの知り合いなので」
 頭を思いっきり殴られたようなショックを受けた。

 ただの知り合い。
 彼ははっきりとそう言った。

「あ、そう……なんですか」
 私はいまどんな表情をしているんだろう。
 わからないけれど、ウェイトレスさんは私を見て、困ったような愛想笑いを浮かべた。

「それでは、何かありましたらお呼びください」
 ウェイトレスさんはそそくさと退散していった。
 漣里くんは何事もなかったように、再びパンケーキを食べ始めた。
 私もシナモンロールを口に運ぶ。

「…………」
 どうしてだろう。
 おいしいはずなのに、味を感じなかった。