……あ。いたんだ。
 漣里くんは真面目な性格だから、ちゃんと時間を守りそうだと思ったんだよね。

 十五分前ならさすがに、と思ったけど、もっと早く来ればよかった。
 彼は噴水の縁に座っているカップルと同じく、俯いてスマホを弄っていた。
 ゲームでもしているらしく、指が単純なスクロールではない動きをしている。

 彼はレイヤードの白いシャツに紺色の半袖シャツを羽織っていた。
 下は黒のスラックス。胸にはシルバーアクセサリー。
 外出するためか、これまでで最も外見に気を遣っているように感じた。

 彼がアクセサリーをつけているところなんて初めて見る。
 もしかしたら葵先輩が全身コーディネートしたのかもしれない。

 失礼だけど、漣里くんは流行やファッションに興味がなさそう。
 いつも決まってシャツにジーパン姿だったし。
 アクセサリーは煩わしいから嫌い、腕時計すら嫌だって言ってたしね。

 ともあれ。
 ……改めて見ると、本当に格好良い人だなぁ。

 伏せられた長い睫毛。大きな瞳。桃色の唇。すらりと伸びた手足。
 ありふれた公園の風景の中で、彼だけが特別に浮かび上がって見える。
 どうやらそんな感想を抱いたのは私だけではないらしく、通りすがりの女子二人組みのうち、一人が彼を見て言った。

「格好良いね、あの子」
「うん。モデルかなぁ」
 二人はきゃっきゃと笑いながら通り過ぎて行った。

「…………」
 これから彼と行動をともにする私にとって、二人の言葉は大きなプレッシャーになった。
 そ、そうだよね。漣里くんが格好良いのは誰が見てもわかる事実だもんね。

 並んで立つのが申し訳ない平凡な容姿だとしても、せめて振る舞いや言葉遣いには気を遣って、美しく……!

 持っているバッグの紐をぎゅっと握り締める。
 今日私が悩みに悩んで選んだのは、薄いピンクをベースにした花柄のワンピース。

 胸元には赤いリボン、裾には控えめなフリルがついている。
 このワンピースは試着したとき、お母さんも店員さんも褒めてくれたから、少なくともそんなに変な格好ではない……はず!

 私は深呼吸してから歩き出した。
 接近に気づいたらしく、漣里くんが顔を上げた。
 ここで私は素早く脳内シミュレーション。

『ごめんね、待った?』
 映画で見たワンシーンみたいに謝りながら、出会えた喜びを表すべく、心からの微笑みを浮かべる――うん、これなら満点だ。文句なんてつけようがない。

 何事も最初が肝心。
 ここで好印象を与えられるかどうかで、この後の運命が決まるといっても過言じゃない。
 さあ、いまこそ人生で最高の笑顔を浮かべて、最高のスタートを切るんだ、真白!