**無職47日目(10月17日)**

昨夜、心太朗は結局4時まで起きてしまった。いや、正確に言うと「寝たくなかった」。何かしらの作業を終わらせないと、寝られないような気がしてしまうのだ。自分では勝手に「寝れない病」と呼んでいるが、もちろん、そんな病気は存在しない。不眠症だ。

仕事を辞めてから、自分のペースを少しずつ掴めるようになってきたと思っていた心太朗。だいたい3日間はそれなりに頑張れる。頑張ると言っても、朝早く起きてジムに行ったり(ただし、気軽なチョコザップだけど)、小説を書いたり、図書館で少し勉強したりと、他人から見れば大したことないかもしれない。でも、心太朗にとってはそれなりにエネルギーを使うことなのだ。

ただ、3日目の夜が問題だ。いつも、その日の夜になると変なテンションになる。確かに「眠い」と感じるが、「寝たくない」気持ちが強くなる。「これも終わらせて、あれもやってしまおう」と思いながら夜が更けていく。気づけば夜更かしをして、次の日は完全に崩れる。まるで心身が電池切れになったかのように。

この「3日目のハイテンション」について、心太朗はもう諦めている節があった。せっかくエネルギーが溢れているのだから、やれることはやってしまおうという考えだ。ただ、問題はその後のダウン期。このダウンが長引くと、せっかく頑張っても結局前に進まない。できる限り、1日で復活したいと思っているが、2日かかってしまうこともしばしばだ。3歩進んで下がるのを許されるのは2歩までだ。


ふと心太朗は思う。「仕事をしていた頃の自分って、本当によくやっていたな」。13時間も働いて、帰ってからも仕事の電話が鳴り、休みの日でも気が休まらなかった。それが今や、3日でバテる自分と同じ人間とは思えない。

崩れてしまった日は仕方ない。心太朗はこの日、復活を早めるためにスマホをいじらないことにした。いわゆる「デジタルデトックス」である。小説を書く日は、日記だけなら1時間ほどだが、「カイケツAI」の構想を描き始めると、ほぼ一日中スマホに向かってしまう。それが良いか悪いかは分からないが、彼はその集中力を少し誇らしく思っていた。仕事で鍛えられた集中力がまだ生きている証だ。

とはいえ、この日はデジタルデトックスだ。リズムを崩したまま過ごしてしまうと、さらに寝られない日々に突入する危険がある。ここで踏みとどまらなければならない。「リズムを戻すことより、これ以上崩さないことが大事だ」と心太朗は自分に言い聞かせた。

スマホを封印したのはいいが、いざデジタルデトックスを始めてみると、やることがない。そこで、ふと思い出した。「そういえば、墓参りに行ってないな」。心太朗はマメに墓参りをする方だが、7月からの厳しい日々と、9月の新しい生活を整えることに追われ、気がつけば3ヶ月以上も足を運んでいなかった。

澄麗もその日、家を出ていなかったので外出したい気分だった。2人でお墓参りに行くことにした。大酒飲みだった祖父には酒、お茶好きだった祖母にはお茶、そして2人にはまんじゅうを買い、お花も用意した。

お墓に着くと、しばらく誰も来ていなかったようで、心太朗と澄麗は丁寧に墓を拭いた。澄麗は大きなお腹を抱えながらも手伝ってくれた。線香に火をつけて手を合わせ、次は子供が生まれたらまた来ると約束した。

心太朗の祖父は昔気質な人だったらしい。心太朗が生まれた時、彼の父が長男で男一人だったこともあり、直系の孫としてとても可愛がられたという。今ではそんな考え方も少なくなってきたが、次に生まれるのは男の子だ。祖父が喜んでいるだろうな、と心太朗は思った。

お墓参りを終えた後、心太朗と澄麗は近くの公園を散歩した。特に予定も入れず、ただゆったりと時間を過ごす。「墓参りは何かのついでにしてはいけない」と聞いたことがあったから、今日はそれだけに集中するつもりだった。

澄麗のお腹を撫でながら、心太朗は新たに命を繋いでいこうと、静かに決意を新たにした。