結局木戸さんは東京までついてきた。
 東京駅に着いた途端、その人の多さにくらくらして、そして、
「木戸さん」
 ぼくは顔を伏せたまま言った。
「なんだよ」
「これ絶対なんかで捕まった高校生に思われているよねえ?」
 周囲の人々の視線がきつすぎる。
「べつにほんとはそうじゃないんだから、堂々としてりゃいいだろ」
「人はそうは思わないって」
「だから関係ねえし」
「人にどう見られるかってけっこう大事なことじゃない?」
 ぼくが言うのを無視して、木戸さんは改札へ進むので、従うより他なかった。
「いた」
 木戸さんが急にとまり、ぼくは木戸さんの背中に頭が当たった。
「え」
「俺はもう帰らなくちゃいけないから、保護者を用意した」
 そこには、木戸さんくらいの年の男が立っていた。
「よっ」
 男は笑って手をあげる。木戸さんは頷くだけだった。
 派手な和柄のシャツを着て、ハーフパンツを履いている。一人だけ沖縄にいるみたいな、いや、木戸さんの私服と似た格好をしていた。
「お揃いだね」
 男がぼくのほうを見て言った。
「え?」
 ぼくはなにをいっているのかわからなかった。
 男はぼくの足を指差した。たしかに、ぼくはサンダルで、男も同じくサンダルだった。
「テルちゃん東京不慣れだろ。だからこいつをつけることにした」
 木戸さんが言った。
「テツって呼んでね、テルちゃん」
 男は言った。
「ちょっと待って、別に」
 そんなのいらない、と言おうとすると、
「いーや、だめです。きみを一人にして自分だけ変えるなんて、できません」
 と木戸さんが言った。
「へえ、タクってそんなに人情深いやつだったっけ? 昔は俺を置き去りにしてさっさと帰ったりしたてのに、ふーん」
 テツさんは木戸さんのほうを目を細めて眺めた。
「この子はまだ高校生だから」
「そこらへんに高校生なんてうようよいるぞ。特別扱いか」
 テツさんは僕の方を向いて、「きみ、みくびられているぞ」
 と言った。
「ちげえし。とにかく、保護者から丁重に扱えって言われてるんだから、お前はこの子の行きたいところにちゃんと連れていってやれ」
 木戸さんが顔をしかめた。
「ひさしぶりに呼ばれたら、まさかおぼのりさんのガイドとは」
 テツさんがおかしそうに言った。

 とにかく、すぐに用事を済ませて帰ってこいよ、と言って木戸さんは去っていった。
 そしてぼくは、隣で木戸さんに手を振っているテツさんを見た。
 綺麗な顔立ちをしていた。ひょうひょうとしていて、でもそのあまりの親しみやすさが、逆に人を寄せ付けないような印象だった。
「さて、どこに行きますかね、王子」
 テツさんが言った。
「あのう、ほんとうにぼく、大丈夫なんで」
「ぼくもべつにきみのお守りなんてするつもりはない」
 テツさんが笑顔で言った。
「だったら」
 あまりにさらっと言うものだから、ぼくは少しこの人に怯えた。
「しかし、頼まれた以上は頼まれたことはする。お互いべつに一緒にいたくなくとも、いなくちゃいけないことだってある。そうだろ?」
「いや、でもそれは木戸さんが勝手に決めたことだし、それにもう木戸さんはいないですから、無理はしないでください」
「べつに無理はしていない。呼び出されたときは、ちょっとばかし面倒になるかな、と思ったけれど、好奇心が勝った。それに、きみがわりと話せるクソガキだってこともわかったし、とりあえず、どこに行きたい?」
 逃がしてはくれなさそうだった。
「じゃあ、三軒茶屋に」