「ねえ。ミナはどう思う? 私はどうして死のうとして、どうして殴られたんだろう?」

 ミナは少しの間、ポカンと私を見ていた。

「それって、いつの話?」

「火曜日の夜」

「火曜――――? 今週の?」

「うん」

「今は金曜日だから、三日前?」

「そうだね」

 ミナが持ってきたリュックからスケジュール帳を出した。

「先週かな……たぶんね。木曜だとは思うけど、半分ラリッてたから」

「なんの話? なにが木曜?」

「だから、松村さんがあの家に夕璃を連れてきた日」

 そういえば、ママが木曜日の夜に私が帰ってこなかったと言っていた。

 M氏本人が私を連れて行ったの――――?
 だけど、テッちゃん達をふりきって一人で真樹紅へ行ったあの日、家出少女と間違って話しかけてきたM氏は私のことを認識していなかった。

「連れて来たとしても、M氏は私のことを知っているわけじゃないの?」

「あの家ではあの人が大将だもん。女の子は全て自分で選んで連れてきて把握しているよ。あそこには幹部クラスの人だけが来るの。自分のお気に入りの子じゃなければそっちに渡すけど、夕璃のことはShin-Raiにいた頃からチェックして気に入っていたみたいだよ」

「な、なんで? 私は裏方のキッチンでバイトしていたんでしょ?」

「でも、松村さんはあそこのママの旦那だもん。あの店だってあいつの店も同然だよ。チャミだって狙われていたんだから」

 ゾッとした。狙われるって、つまり夜の相手とかそっちなの?
 そんなことになるなら、私だってミナのように自分を切りつけるかもしれない。

 自殺しようと思ったのって、やっぱりそのせいなの―――?

「だ、だけど、M氏とは一昨日会ったんだよ、真樹紅で。私は記憶も無くてうろうろしていたら、あの人が私を家出少女と間違えて声をかけたの。でも、私を知っているって感じじゃなかったよ」

「夕璃が金髪にしたから分からなかったんでしょ? いかにも真樹紅にいそうな子になっていたから」

「えっ?」

「あいつは清楚な子が好きなの。だから、Shin-Raiにいた夕璃をどうにか連れて来たかったのよ」

「金髪にしたのって、M氏から逃れるため――――?」

 おぼろげな記憶の中で、「ナナちゃんは金髪が似合うと思う」とジュリちゃんが言っていた。そして、ジュリちゃん自身も私の髪の色を抜いたと言っていた。

「金髪になった夕璃には気づかなかったなら作戦成功だね」

「真樹紅でハメを外して派手な格好をしていたのかと思った……」

 自分でも驚いていたのだ。いくら記憶がないと言っても自分の行動だから、どうしても髪を金髪にしようという思考に至るなんてわからなかった。

 だけど、M氏に見つからない手段ということなら合点がいく。

「早く逃げると思っていたのに、どうして夕璃は火曜までShin-Raiにいたんだろうね?」

「逃げるところが無かったのかな……」

 こんな風貌になって家に帰れないと思ったのかもしれない。もしくは、やっぱりあの男に何かされたの……?