知らない街だったけど、真樹紅と家との中間地点よりやや家寄りにあるローカルな場所を選んだ。
 そして、人に紛れるという意味でも人目がある場所という意味でも、人が多そうなどこにでもあるファミレスで待ち合わせをした。

「誰にもつけられていなかった?」

 ミナがお店に入ってくると、昨日、ミナが言ったことと同じことを私が言った。
 あの時は詩音さんの言葉を聞いて、ミナが妄想の中で生きているのだと思い込んでいた。

 だけど、きっと詩音さんもこんな世界があるなんて知らなかったのだろう。
 Shin-Raiにいたことがあるとはいえ、今ではモデルという華やかな仕事をしている人だ。

 それに、あの薬漬けにされてしまうM氏の家とママのいるShin-Raiでは雲泥の差だ。

「大丈夫……だと思うけど……」

「やだ、〝思う〟じゃ困るよ」

「少なくとも、男たちは来ていないよ。ただ、チャミを見たような気がして……」
 
「Shin-Raiを出て行ったという女の子ね? 彼女は納得してそっちの家にいるの?」

「まさか」

 ミナが鋭い目でわたしを見た。
 前回よりラリっている感じがなく、普通の子に見えた。

「チャミは騙されたんだよ。モデルになれるって思い込んで。あいつらは大手モデル事務所の名刺を用意していたの。あの家に来ても、はじめは普通にモデルっぽい撮影していたみたいでその気にさせられて。で、あいつらの手口で美容にいいドリンクだとか言って覚せい剤入りのドリンクを飲ませるの」

 そんな話を聞くと、さっきの映像を思い出して再び身体が硬直してゾッとする。
 あの家の男たちは覚せい剤ドリンクを餌にして、女の子たちを思うように操ってきたんだ。

「だけどね、あれって覚せい剤だと知らずに飲むと、本当に頭がスッキリして調子が良くなって、いい栄養ドリンクだとカン違いするの。グラビアの仕事だと騙されて裸の写真を撮られた時には、もう覚せい剤の魔の手から逃れられなくなっていたの」

「そんな……」

「だけど、今ではあの子は奴らのお気に入りなの。顔を出さないって条件で、身体のモデルの仕事をきちんとこなすようになったからね。芸能界を目指していたほどの美人だから、決まった幹部の人の夜の相手をしているうちにその人の愛人に納まって。だからと言って、チャミ本人がそんな生活を望んでなんていないけどね」

 そう言うと、ミナはシガレットケースを出して煙草を咥えたけど、灰皿を見つけられずに舌打ちした。