その後も、そんな場面がいくつか続いた。
 私は全身が硬直してしばらく動けなかった。

 画面の中の出来事なのに、恐くて仕方がなくてガタガタと震え出して涙が零れ落ちていく。

 これは現実に起こっていることなんだ――――!
 真樹紅の街のどこか、あの松村という男の家では、あんなことが日常的にあるということだろう。

 画面はどれも隠し撮り風で、長い時間は撮っていない。
 女の子たちの顔は一切映さず、男たちの顔は比較的映そうとしているのがわかる。

 そうか、あれが来夢さんが警察に届けると言ったものじゃないかと思った。
 自分に何かがあった時のために、私にも託したのだろう。

 だけど、これが警察の手に渡って摘発されたら、捨てていいって……。

 あの時は盗聴機やら発信機やらがついて逃げているような状態が怖くて、深く考える余裕も無かったけれど。

 きっと来夢さんはあの手紙を読んだんだ。
 だから、手紙を探しに来た人がいたら、その人にSDカードを託そうと思ったのかもしれない。

 だとしたら、手紙の続きを持っているのは来夢さんだろうか……?
 あの続きには何が書かれているの?
 お母さんが菜々のお義母さんだったっていうことは想い出せたけど、肝心なところがわからなくて恐怖心が抜けない。

 その時、携帯の着信音が鳴った。

「やだ、心臓に悪い」

 そう言いながら画面を見ると、〝ミナ〟と表示が出た。
 そうだ、昨日連絡先を交換したんだった。

 だけど、ミナが本当にあの家に住んでいるなら、私の連絡先を教えてはいけなかったんじゃないかと後悔した。

「……ミナ?」
 
「おねがい、助けて! もう本当に逃げたいの。ずっと怖がってきて、夕璃になにを言われても逃げることなんて出来なかったけど。だけど、もう夕璃の言う通りだとしか思えない。あたしはここにいたら人生を失くしちゃう!」

 電話口で彼女の泣き声が響く。

 なに? どうしたらいいの? 

 困惑しているけれど、彼女の口ぶりでは私はミナを実際に助けようとしていたんだろうか――――?
 一体、どうやって助けると言うの?

「安全なところへ行きたい。発信機も盗聴器も捨てたから、奴らは気づいたら追いかけてくる!」

「わかったから、ちょっと落ち着いて」

 家に呼ぶわけにはいかない。ここがバレたら私やお父さんに危険が及んでも困る。
 だけど、このミナの切羽詰まった状態も放っておけない。

「明日の午後、奴らが逃げるなんて思っていない時間に出て行くから」

「わかった。じゃ、とりあえず待ち合わせしよう」

 私たちは真樹紅からも家からも少し離れた場所で落ち合うことにした。