そうだ、思い出した。
それで私はすぐにネットでバイト先を選んで電話して、急遽その夜に面接が決まったから、家を出て真樹紅に向かったんだ。
その時点では、しばらく帰らない決意をしていた。
だけど、その後のことはやっぱり思い出せなかった。
昨日の夜、私は菜々を迎えに来たお母さんと会っていたのに。
私はお母さんに似ていると思いながらも、お母さんだと認識することは出来なかった。
そもそも死んだと聞かされていたのだ。雰囲気も全然ちがって、菜々のお義母さんが私のお母さんであるはずがないという頭もあった。
お母さんの方はどんな気持ちだったんだろうか。
そっか。私の記憶がないことも菜々から聞いて知っていたんだ。
そう思うと複雑だった。
だから、菜々を迎えに来た時はよそよそしい態度を取ったのかな。
それに、家には寝ているとはいえお父さんがいた。家の中に入らなかったのも、お父さんに会う可能性があるから?
だけど、今はそんなことを気にしている場合ではない。真樹紅行きを決めた私はどうして死のうとしたのか、また殺されそうだったのかを知りたかった。
私は短期間で帰るつもりだったんだろうか――――?
手紙の続きを読むと、再び絶句した。
『私は自分を取り戻すためには、お母さんと同じ道を行ってみようって思い立った。
今思えば、テッちゃんのこととお母さんのことで、どこか精神状態が不安定になっていたんだと思うのだけど、衝動的に家を出て真珠紅の夜の街に出たいと思って、ネットでそういうお店の募集を探して急遽面談にこぎつけたの。
それが、私が家を出るまでの経緯です。
長くてごめんね。
ここからは、死を選んだ経緯の話になります。
ここまででも驚くことはあったと思うけど、この先はもっとシビアで重い現実があるから、覚悟して読んでください』』
手紙はそこで終わっていた。
まるで続きがあるような文章だけど、続きは封筒の中に入っていなかった。
入れ忘れたの? まさかね……。
だけど、あの続きが私が今一番知りたいことが書いてあるはずだった。
死を選んだ経緯。そこには狙われた理由も想像できる内容が入っているような気がした。
どうして続きが無いんだろう? と、私はその手紙と封筒をもう一度確認する。
私好みの便せんと無機質な白い封筒という組み合わせの違和感、そして一緒に入っていたSDカードを思い出す。
「見てみようかな……」
私はリビングに置いてあるデスクトップパソコンの前に座り、SDカードを差し込んだ。
「動画……?」