「――――もしかして、それって……宮城菜々?」
「ええ、そう。菜々よ」
パリンッと音を立ててガラスの心が弾けた。
お母さんは無邪気な笑顔で嬉しそうに話し続ける。
「ふふっ、すぐわかるなんて、やっぱり仲良しなのね。そうそう、菜々が前に言っていたのよ――――」
どんどんお母さんの声が遠ざかって視界が暗くなっていく。
菜々が仲よくしていたお義母さんは私のお母さんだったというの――――?
お母さんは六歳の私を置いて家を出て、四年後に菜々の母親になったの?
まるで別人のように優しい人になって……?
菜々には彼女を生んだ母親の記憶がない。私にはお母さんしか母親がいない。
つまり、私たちは母親と呼べる人は共通している。
だから雰囲気が似ていると言われたの――――?
そうかもしれない。私たちは同じお母さんに育てられたんだ。
だけど、私のお母さんは心が壊れていて私に笑いかけることも無かった。
菜々のお義母さんは優しい人で、菜々がいつも柔らかい雰囲気で優しい子なのはその人の影響なんだっていつも思っていた。
同じお母さんだなんて信じられない。
だけど、同じお母さんで――――。
この状況を頭が整理できてくると、私の心が混乱してぐちゃぐちゃになっていくのを感じた。
テッちゃんもお母さんも、私が欲しい人の心が全部菜々に持って行かれてしまったんだ――――!
そんな考えは間違っている、私の中にはそう否定する声もあるけれど。
私の心が、感情が、どうしてもそっちに傾いてしまって泣き叫びたい衝動に駆られる。
お母さんにはそんな心を悟られないよう、笑顔を保ってなにか話していたような気がする。
だけどお母さんが帰った後に、私は抑えきれずに号泣した。
ソファの上でクッションを抱きしめて、まるで小さな子どものようにわんわんと声をあげて泣いていた。
テッちゃんへの失恋と生きていたお母さんが菜々のお義母さんになっていたというショックが重なって、とにかく菜々への嫉妬が巨大化していくのを感じていた。
菜々のことは変わらず良い子だと思う。
大好きな親友でもある。
だからこそ、こんな醜い心を持つ自分が許せなくて。
それでも、悲しくて辛くて、どこか怒りの感情も持っていて。
その時、お母さんが言った言葉が頭の中を過ぎった。
「お母さんは十七で家を出て、真樹紅の夜のお店で雇ってもらって――――」
お母さんは家を出て人生を変えたのだ。
そして、それは絶対に菜々はやらない、と思った。
お母さんが家を出た時と同じ十七歳の私は、同じ経験をしてみたいと思った。
それで何かが変わるような気がしたのだ。菜々を羨んだり妬んだりしない、自分独自の人生を切り開けるような気がした。
真樹紅へ行こう――――!