「ごめんね、夕璃……」

 お母さんが泣きながらもう一度私を抱きしめた。

「責められても仕方がないわね。だけど、もう後悔はしたくないのよ。今日ね、あなたを見てしまったの。だから、これからは時間が掛ってもいいから、親娘に戻りたいと思っているの」

 その言葉は素直に嬉しかった。

 だって、きっとずっと私が欲しかった言葉だった。母親を求めていた幼かった私が。
 お母さんの前では、私の時間は六歳で止まっていたのかもしれない。

「――――ありがとう……」

 お母さんの腕の中でかすれた声を出した。私も素直になろうと思えたのだ。
 
「生きていてくれて、会いに来てくれて……」

 もう一度ギュッと抱きしめられたあと、お母さんが身体を離して満面の笑みで私の顔を見た。
 あの頃より年を取ったはずなのに、しわが少し増えているかもしれないけれど、お母さんはとても若々しく輝いて見えた。

「今日ね、鉄平君と一緒にいる夕璃を見たのよ」

「えっ?」

 急にテッちゃんの名前が出て、フラれたことを思い出した。その途端に、心の中に雨雲のような黒いモヤがかかり、哀しみの雨が土砂降りのように心を濡らしていくのを感じた。

「実はね、鉄平君ママとは去年、再会したの。鉄平君にも夕璃にも口止めしてもらっていたけど」

「ど……こで……?」

 テッちゃんのママとはこの一年だって何度も会っていた。お母さんが口止めしていたとはいえ、なんだか騙されていたような気持ちになる。
 
「あなたの通っている高校で。……あのね、お母さん、七年前に再婚したの。彼の連れ子が夕璃と同い年であの学校に通っていて……」

 七年前――――? 私が十歳の頃にお母さんが再婚している?
 連れ子があの学校に通っているって――――。

 私の鼓動が少しずつ速くなっていき、微かに身体が震えていくのを感じた。

「入学式の頃から、夕璃があの高校にいることは知っていたの。その連れ子の娘がね、あなたと仲良くなって」

 私の中で、何かが崩れそうだった。まるで大きなガラス玉のような心にギシギシと音を立ててひびが入っていく感覚で……。