『 私は家を出たあの日、一学期の終業式の日、ずっと幼なじみって位置づけだったテッちゃんに告白をしたけど、フラれたの。

だけど、テッちゃんの気持ちには随分前から気がついていたんだ、私』

 そこから、私はテッちゃんが菜々を好きなこと、それにずっと気づいていたこと。
 告白して諦めて応援しようと思ったけれど、思ったより自分がテッちゃんを好きで、応援なんてできる優しさを持ち合わせていなかったと気づいたこと。

 そんなことが綴られていた。
 そう、記憶を失くした私が昨日まで感じていたどろどろした感情がそのまま書いてあったのだ。

 二週間前に家を出る前にも、私はあんな感情を持っていたんだ…………。
 そう思うと複雑だった。

 でも、たしかに知っている感情だと思っていたかもしれない。

 そして、手紙を書いている私も昨日までの私と同じように、家族のように私を大切にしてくれるテッちゃんは、好きな人として想ってくれることは永遠にないんだと理解して絶望していた。

 そして、テッちゃんに『宮城に寄せていると、おまえらしさが消えている』と言われ、『自分らしさってなに?』とわからなくなって迷子のようになっていた。

「――――えっ?」

 その先を読み進めようとして、私は絶句した。

『家に帰ると、意外な訪問者が現れたの。

 六歳のときに死んだと聞かされていたお母さんが家を訪ねてきた』

 お母さん――――?
 死んだと聞かされていた――――?


 どういうこと?


 急に後頭部がズキンと痛んだ。河原で殴られたところだ。

 と同時に、大きな目眩に見舞われて視界が揺れて頭がおかしくなりそうだった。


 イヤだ、恐い――――!


 大きな恐怖に襲われた時、目の前に菜々のお義母さんの顔が現れた。

 菜々を夜中に迎えに来た時、私のお母さんによく似ているなって思ったの。
 だけど、全然違う。顔は似ていたけど、雰囲気も表情も全然違った。

 私のお母さんは菜々のお義母さんみたいに優しく柔らかい雰囲気なんて無かったから。

 いつも無表情で無気力で。時には急に怒り出してキレられた。
 そんな情緒不安定で、恐いくらい神経質で――――。