元々はあの手紙を探していたんだ。
私がどうして家を出て真樹紅に行って水商売をしたいと思っていたのか、どうして死のうとしていたのか、誰になんの理由で狙われていて殴られたのか。
その疑問の答えが全て、手紙の中にあるのだろうと思えたのだ。
私はスミレの顔を見た。すっかり心配した表情をしている。
彼女に話す必要はないだろうと思った。
スミレには――――この平和な住宅街に住んでいる人たちには、関係ない世界が世の中にはある。
私にも関係ない世界だったはずだけど。
きっと、自分から飛び込んでしまったんだから仕方がない。
「じゃ、夕璃は心にけじめをつけるために告ったの?」
ふいに、スミレの声が耳に響き我に返った。
「えっ?」
「だから、栗林に。あいつが菜々のことを好きだって知っていたんでしょ?」
「ああ、うん。そうだね……。たぶん、そうかな。フラれても夏休みに顔を合わせなければ、今まで通りテッちゃんの幼なじみと菜々の親友に戻れると思ったの」
そう、それは本当にそう思っていた。そして、そのあとに二人を見て、すごく辛くなったことも確かだった――――。
それはつい昨日のことなのに、もうそんなことがとっても小さなことのような気がしていた。
そんな話は、とっても遠い世界のことのような…………。
だって、自分の身に危険があるかもしれない。
自分だけじゃない。
さっき、来夢さんは「俺の身に何かあったら」と言っていた。
あれって、危険なことがあるってことだよね。
それに、たぶん私の友達だったであろうミナは確実に薬漬けにされていて――――。
私だって、頭を殴られて負傷しているうえに、M氏が逮捕されない限りは狙われる恐れがある――――ってことだよね?
なのに、なにも詳細をわかっていなくて。
あの最後の手紙にそれは書いてあるのだろうか――――?
「スミレ。たぶん、夏休みが終わったら大丈夫。私はテッちゃんの恋を応援できると思う」
「そう?自分を押し殺したり、無理しちゃダメよ」
そう言いながら、スミレは少し安心した表情をしていた。
私はきっと大丈夫だという顔をしているのだろう。
だって、もうそのことが小さく感じているんだもん。
まだテッちゃんと菜々の話をすると、少しだけ心が痛む部分はあるけれど。
それでも、真樹紅で衝撃的なことをたくさん聞いて、実際に恐い目にも遇っているから…………。
失恋の痛みなんて、本当に些細なものに変わっているのかもしれない。
失恋だって、ジュリちゃんの言う「普通の幸せ」の一部なのかもしれないと思えたのかもしれない。