思ったより重くなってしまった荷物を持ってお店に寄ると、ママがカウンターに座ってぼんやりと煙草を吸っていた。

「ありがとうございました、帰ります」

 私が声をかけると、ハッとした表情になってこちらを見た。

「ああ、ナナちゃん。荷物はまだあるんでしょう? 家に帰っちゃうなら働いてとは言わないから、また遊びに来てね」

「――――はい」

「そのぬいぐるみ」

 ふいにママがルイを指差した。

「えっ?」

「……眠れないから抱いて寝るんだって言っていたわね。ふふっ」

「あっ、そうです。そんな話もしたんだ、私」

「そうね。気を許してくれていたわ。あっ、ちょっと待って。ナナちゃんが好きだったお菓子があるの」

 そう言うと、ママはカウンターの奥へ入って行った。
 私には母親がいないけど、ママはきっとこの二週間、母親のように接してくれたんだろうと感じた。

「ごめんね、包み紙は開けちゃったけど。中は全部そろっているからね」

 小さな箱を持ってくると、私に差し出した。

「ありがとうございます。和菓子?」

 なんだろうと思ってふたを開けようとすると、ママが慌てたようにそれを制した。

「お楽しみよ。電車の中で食べて」

 電車の中で? いや、食べないでしょ。
 そんなツッコミを入れたかったけど、田舎の電車だったら食べるのかもしれない、なんて思いながら「はい」と答えた。

 ここにも盗聴器があるのだろうか?
 盗聴器なんて、誰が何のために仕掛けているの?

 そんな疑問が溢れるけれど、もう私には関係なくなるのだから聞く必要もない。
 ただ、この二週間の記憶が無いから、その間に私が何を喋って誰に聞かれていたのか、そんな不安が残るだけで。

「外に来夢がいるから、送ってもらいなさい」

 そう言うと、ママが私を抱きしめた。

「元気でね。たとえ記憶が戻っても、連絡してきたらダメよ。手紙もダメ」

 耳元でそう囁いた。
 さっきは遊びに来いと言ったけれど――――。

「じゃ、気を付けて帰ってね」

 私から離れると、ママは笑顔を見せた。
 私は笑うことが出来ず、ただ頭を下げた。

 ママはなにか知っているんだ。
 そうとしか思えないけれど、聞くことが出来なかった。

 ルイをギュッと抱きしめた。
 そのモノトーンのギンガムチェックの服の中に、クシャっと音がして紙が入っている感覚がある。
 ここにある菜々宛ての手紙を読めば、全てがわかるはずだから。